脊髄損傷の後遺障害
脊椎の中にある神経の束である脊髄の全部又は一部を損傷すると、損傷された脊髄神経の髄節支配領域下にある両上肢又は下肢に麻痺が残ります。
脊髄損傷は、交通事故・転落事故・スポーツ事故に多く見られます。脊髄損傷の原因の多くは、脊椎の骨折や脱臼などに合併する鈍力による損傷です。
完全損傷と不完全損傷
完全損傷は、脊髄を完全に横断した損傷です。骨折や脱臼を伴うと、ほとんどの場合、完全損傷になります。頚髄の場合、C3レベル以上では死亡するケースがあります。C4レベル以下では生存しても呼吸管理が必要になります。C5レベル以下では四肢麻痺を後遺障害として残ることになります。
不完全損傷は、脊髄の一部を損傷し、一部の機能が残った状態です。脊髄前部損傷、中心性脊髄損傷、後部脊髄損傷は、不完全損傷です。
中心性脊髄損傷
中心性脊髄損傷は、骨折や脱臼のない非骨傷性の脊髄損傷です。麻痺は上肢を中心に現れます。麻痺の回復は下肢からみられ、上肢に進んでいきます。
なお、手指がビリビリするといった程度の軽度の損傷についても中心性脊髄損傷と診断されることがあります。
麻痺の程度
脊髄損傷の麻痺の程度は、フランケル分類により、完全麻痺(A)と不全麻痺(B~E)に分類されます。
フランケル分類
A:損傷レベルより下位の運動・知覚の完全麻痺
B:損傷レベルより下位の運動の完全麻痺、知覚はいくらか残存
C:損傷レベルより下位の運動機能はわずかに残存しているが実用性なし
D:損傷レベルより下位の実用的な運動機能が残存している
E:運動、知覚麻痺、膀胱直腸障害などの神経学的症状を認めないもの、深部反射は亢進してもよい
脊髄損傷の診断
画像診断・神経学的診断・電気生理学的検査によって診断されます。後遺障害との関係では、MRI画像が必須といえます。
後遺障害の等級
脊髄が損傷すると、様々な症状が出現します。後遺障害の等級認定は、原則として、身体的所見とMRIやCTによって裏付けることのできる麻痺の範囲と程度によって認定します。
麻痺の範囲
麻痺の範囲
四肢麻痺:両側上肢の麻痺
片麻痺:一側上下肢の麻痺
対麻痺:両上肢又は両下肢の麻痺
単麻痺:上肢又は下肢の一肢のみの麻痺
四肢麻痺であれば、3級以上が認定されます。対麻痺であれば5級以上、単麻痺は5級~9級に相当すると考えられます。
後遺障害等級
等級 | 概要 |
別表1の1級1号 |
①高度の四肢麻痺 ②高度の対麻痺 ③中程度の四肢麻痺で常時介護を要する ④中程度の対麻痺で常時介護を要する |
別表1の2級1号 |
①中程度の四肢麻痺 ②軽度の四肢麻痺で随時介護を要する ③中程度の対麻痺で随時介護を要する |
3級3号 |
①軽度の四肢麻痺 ②中程度の対麻痺 |
5級2号 |
①軽度の対麻痺 ②一下肢の高度の単麻痺 |
7級4号 | 一下肢の中程度の単麻痺 |
9級10号 | 一下肢の軽度の単麻痺 |
12級13号 |
①支障がほとんどない軽微な麻痺 ②運動障害を伴わない広範囲にわたる感覚障害 |
脊髄不全損傷?
脊髄の完全損傷は、画像所見が得られることが多いのです。しかし、不全損傷は画像所見が得られないことが多いです。中には、画像所見も神経学所見もなく、脊髄不全損傷と診断名が付けられていることもあります。そのような場合、治療内容は、むち打ちと変わらないことも多いです。
画像所見がなければ、自賠責保険では後遺障害は、少なくとも脊髄損傷としては非該当です(むち打ちとして14級が認められる可能性はあります。)。