交通事故での整骨院への通院
交通事故の被害者の中には、病院ではなく、整骨院での施術をメインにされている方がいます。病院に行く時間がない、病院では薬しか処方してもらえないなど理由は様々です。
しかし、病院と整骨院は、以下のような違いがあり、整骨院に通院するのは、損害賠償という観点からはリスクがあります。リスクを理解したうえで、利用する必要があります。
①診断書
診断書を記載することができるのは医師のみです。整骨院では施術証明書になります。
したがって、後遺障害診断書も医師しか記載することはできません。病院にほとんど通院していない場合、医師が症状を把握できず、後遺障害診断書を書いてもらえないといったこともありえます。
②画像撮影
整骨院では画像撮影(レントゲン・CT・MRI)を行うことはできません。画像撮影ができるのは病院です。急性期に画像撮影がないと、「画像撮影するほどのケガではない=軽傷」と判断されやすくなります。
③薬の処方
整骨院では薬が処方されません。投薬治療ができるのは病院です。
急性期に投薬治療が行われていないと、「投薬するほどのケガではない=軽傷」と判断されやすくなります。
④施術費の取扱い
整骨院での施術費が損害として認められるかについて、裁判所は、原則として医師の指示がある場合に損害として認めると考えています。整骨院で施術を受けている被害者から、医師の同意があったと聞かされることがあります。しかし、弁護士が医師に確認すると、「同意はしてない、自己責任だ」と回答されることがほとんどです。つまり、ほとんどの場合、医師の同意を得ることはできません。
裁判所は、例外として、医師の指示がなくても、施術に必要性・有効性がある場合に相当額を損害として認めることがあると考えています。施術の必要性・有効性を立証するのは、非常に困難です。
最近、保険会社が整骨院の施術費の支払いを拒むケースが増加しています。また、保険会社が整骨院の施術費を支払っていたとしても、後に訴訟になった場合、整骨院の施術費が損害であることを争うことが予想されます。そして、最近の裁判例の傾向として、施術費の全部又は一部を損害として認めないことが多いです。
整骨院の施術費が、損害として認められないことが多いことを認識しておいてください。認められなかった施術費は、被害者が自己負担することなります。その金額は、数十万円以上になることも珍しくありません。
※詳細は、東洋医学の費用は損害として認められるか?参照
⑤後遺障害の認定
頚椎捻挫・腰椎捻挫といったむち打ちでも、後遺障害が認定されることがあります。
むち打ちの後遺障害(14級)の場合、治療状況が重要になります。しかし、整骨院の施術をメインで行っている場合、後遺障害は、まず認定されないと考えられます。
リスクを知った上で、健康保険を利用して通院する
交通事故で整骨院へ通院するのは、損害賠償という観点からは、リスクしかありません。
整骨院には、夜遅くまで開いている等の利点もありますが、以上のようなリスクを踏まえ、リスクを受け入れられないのであれば、利用すべきではないでしょう。
「整骨院の施術中心でも問題はないが、月1回は病院で診察を受けるように」との見解も見られます。しかし、医師の指示ではなく、月1回の通院が、単なるアリバイ的なものであれば、まったく意味がないことは言うまでもありません。
また、整骨院を利用する際は、施術費の全部又は一部が損害として認められないことを前提に、必ず健康保険を利用して施術費をできるだけ抑えることが重要です。