自動車保険と告知義務(交通事故の判例)

自動車保険の告知義務に違反した場合の効果について判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁昭和62年2月20日判決

 自動車保険の約款上の義務である対人事故の通知を懈怠したときに,自動車保険の支払がなされるかどうかが争われた事案です。

事案の概要

 本件保険契約に適用される自家用自動車保険普通保険約款6章12条2号は,保険契約者又は被保険者が事故の発生を知ったときには事故発生の日時,場所,事故の状況,損害又は傷害の程度,被害者の住所,氏名等を遅滞なく書面で保険者に対して通知すべきである旨規定し,また,同14条は,対人事故の場合の特則として,保険者が保険契約者又は被保険者から12条2号による事故通知を受けることなく事故発生の日から60日を経過した場合には,保険契約者又は被保険者が過失なくして事故の発生を知らなかったとき又はやむを得ない事由により同期間内に事故通知できなかったときを除いて,保険者は事故に係る損害をてん補しない旨規定している。

最高裁の判断

 対人事故の場合に上記の期間内に事故通知がされなかったときには,上記例外に当たらない限り,常に保険者が損害のてん補責任を免れうることを定めたものと解するのは相当でなく,保険者が損害のてん補責任を免れうる範囲の点についても,また,事故通知義務が懈怠されたことにより生じる法律効果の点についても,各規定が保険契約者及び被保険者に対して事故通知義務を課している目的及び義務の法的性質からくる制限が自ら存するものというべきである。

 各規定が,保険契約者又は被保険者に対して事故通知義務を課している直接の目的は,保険者が,早期に保険事故を知ることによって損害の発生を最小限度にとどめるために必要な指示を保険契約者又は被保険者等に与える等の善後措置を速やかに講じることができるようにするとともに,早期に事故状況・原因の調査,損害の費目・額の調査等を行うことにより損害のてん補責任の有無及び適正なてん補額を決定することができるようにすることにあり,また,事故通知義務は保険契約上の債務と解すべきであるから,保険契約者又は被保険者が保険金を詐取し又は保険者の事故発生の事情の調査,損害てん補責任の有無の調査若しくはてん補額の確定を妨げる目的等保険契約における信義誠実の原則上許されない目的のもとに事故通知をしなかった場合においては保険者は損害のてん補責任を免れうるものというべきであるが,そうでない場合においては,保険者が上記の期間内に事故通知を受けなかったことにより損害のてん補責任を免れるのは,事故通知を受けなかったことにより損害を被ったときにおいて,これにより取得する損害賠償請求権の限度においてであるというべきであり,上記14条もかかる趣旨を定めた規定にとどまるものと解するのが相当である。

 本件事故は被害者が即死に近い事故であって,被保険者等において損害の拡大をくいとめる余地は殆どないうえ,同事故に基づく損害の額は被上告人らとA社との間の別件訴訟の確定判決により適正に算定されたというのであり,また,上告人は,原審において,本件保険契約の保険契約者であるA社及び被保険者が前示のような目的のもとに本件事故につき通知しなかったものであることについても,また,本件事故についての通知義務が懈怠されたことによって損害を被ったことについても主張・立証していなかったところであるから,上告人は,事故通知義務が懈怠されたことを理由として,本件事故による損害についてのてん補責任を免れないものというべきである。