症状固定後に後遺障害が悪化した場合に、加害者に対して損害賠償請求ができるか?を判断した裁判例を紹介します。
東京地裁平成29年10月25日判決
交通事故により後遺障害が残存したとして損害賠償請求訴訟提起し、損害賠償請求を一部認める判決後、後遺障害が悪化したとして再度、訴訟提起することが認められるか?が問題になりました。
事案の概要
Xは、平成19年9月15日午後1時13分頃、福島県内で横断歩道を横断歩行中に被告車両に衝突され負傷した。
東京地方裁判所は、本件事故に基づく原告から被告に対する損害賠償請求につき、平成22年6月30日、原告に86万9,680円及びこれに対する平成19年9月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うよう被告に命じ、その余の請求を棄却する判決を言い渡した。
Xは、前訴判決を不服として上記請求の全部認容を求めて控訴及び上告をしたが、いずれも棄却され、前訴判決は、平成23年10月25日、確定した。被告は、平成23年6月頃、原告に対し、前訴判決によって命じられた金員(遅延損害金を含む。)を支払った。
Xは、本件事故により、不全頚髄損傷、頚椎捻挫、頭部打撲、脳挫傷及び両肩関節打撲傷の傷害を負い、歩行困難(現在T字杖歩行にて移動、数十m歩行で1度休む)、右上肢しびれ、両下肢痛(痛くて眠れないことあり)及び頚に針で刺したような痛みの自覚症状を残し、平成27年8月27日に症状固定し、上記症状は、自賠法施行令別表第二の第3級3号に該当すると主張し、合計4,209万円の損害賠償を求めて、本件訴訟を提起した。
裁判所の判断
東京地裁は、後遺障害が悪化したことを理由とする再度の請求自体は妨げられないと判断しました。なお、損害賠償請求については請求棄却されています。
東京地方裁判所は、平成22年6月30日、原告が本件事故により頚椎捻挫、両肩関節打撲傷及び頭部打撲の傷害を負ったと認められるが、頚髄損傷及び脳挫傷の傷害を負ったとは認められない、症状固定日は平成19年11月15日である、客観的所見に照らすと、仮に本件事故後に原告の症状の悪化があるとしても、本件手術後に再度頚髄症が悪化していることによるものと考えられ、本件事故による後遺障害が残存したとは認められないなどと判断し、前訴判決を言い渡した。
確定判決後に同一訴訟物の訴えが提起された場合、後訴(本件訴訟)は、前訴(前件訴訟)の確定判決の既判力に拘束されるというべきである。もっとも、前訴において、一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合には、前訴の訴訟物は、上記債権の一部の存否のみであって全部の存否ではなく、したがって、上記一部の請求についての確定判決の既判力は残部の請求には及ばないと解するのが相当である。
Xは、前件訴訟において、本件事故によって不全頚髄損傷、頚椎捻挫、頭部打撲、脳挫傷(ないし外傷性脳損傷)及び両肩関節打撲傷の傷害を負い、平成21年4月に症状固定した別表第二第5級2号に該当する後遺障害である神経症状(本件症状)を残したと主張して、傷害分に加え、後遺障害分の損害の賠償を請求している。他方で、Xは、本件訴訟において、本件事故によって不全頚髄損傷、頚椎捻挫、頭部打撲、脳挫傷及び両肩関節打撲傷の傷害を負い、平成27年8月27日に症状固定した別表第二第3級3号に該当する神経症状(歩行困難、右上肢しびれ、両下肢痛及び頚部痛)を残したと主張して、後遺障害分の損害の賠償を請求している。
Xは、前件訴訟において、平成21年4月に症状固定した神経症状(本件症状)が別表第二第5級2号の後遺障害に該当することを前提とする後遺障害分の損害の賠償を請求しており、後遺障害の特質に照らせば、これをもって原告が一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示していたと認めうるから、原告が、平成21年4月には本件症状が症状固定しておらず、つまり、その後に症状が悪化するなどし、平成27年8月27日に症状固定した別表第二第3級3号に該当する神経症状を残したと主張して後遺障害分の損害の賠償を請求する(本訴請求)ことが、直ちに確定した前訴判決の既判力に抵触して許されないとまでいうことはできない。