加重障害とむち打ちの後遺障害認定(交通事故の裁判例)

既存障害で14級9号の後遺障害認定を受けた被害者のむち打ちの後遺障害認定が問題になった裁判例を紹介します。

横浜地裁平成26年8月28日判決

 交通事故に限らず,すでに後遺障害の認定を受けている場合,自賠責保険では,加重障害として,既存障害を上回る後遺障害等級が認められなければ,後遺障害と認定されることはありません(後遺障害等級認定のルール②参照)。

 つまり,一度でもむち打ちで14級9号と認定されると,その後,交通事故でむち打ちの傷害を負った場合,自賠責保険では,12級13号の後遺障害と認められなければ,後遺障害と認定されることはありません。

事案の概要

 原告は,平成16年9月12日に発生した交通事故によって,腰椎捻挫及び頸椎捻挫の傷害を負い,平成17年7月26日に症状固定となり,腰痛及び長時間座位困難の神経症状について,損害保険料率算出機構によって,「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級表の第14級第9号に該当すると認定された。
 原告は,平成20年11月11日に発生した交通事故によって,頸椎捻挫の傷害を負い,平成22年1月18日に症状固定となり,頸椎捻挫後の右上肢しびれの症状について,損害保険料率算出機構によって,「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級表の第14級第9号に該当すると認定された。

 平成24年11月25日午前6時頃,原告車が青色信号に従って交差点に進入したところ,左側から赤色信号を無視した被告車が当該交差点に進入し,原告車側面に衝突したことによって,原告車が横転し,一回転し大破,全損となった。原告は本件事故により頸椎捻挫,頸部神経根症,腰椎捻挫,右坐骨神経痛,右第八,九肋骨骨折の傷害を負った。

 原告は,平成25年11月1日,自賠責保険の後遺障害等級認定手続において,以下のとおり,自賠責保険における後遺障害には該当しないと判断された。
(1) 頸部受傷後の頸部痛,右上肢痛・しびれ等の症状については,後遺障害等級表の第14級9号を超える等級には該当しないと判断されるが,①右上肢しびれについては,別件事故二の受傷に伴う右上肢しびれが後遺障害等級表第14級第9号に該当すると認定されており,これを加重したものとはいえず,後遺障害には該当しない,②頸部痛の症状については,将来においても回復が困難と見込まれる障害とはいえず,後遺障害には該当しないと判断された。
(2) 腰部受傷後の腰部痛,右下肢痛等の症状については,後遺障害等級表の第14級第9号を超える等級には該当しないと判断されるが,③腰部痛については,別件事故一の受傷に伴う腰痛,長時間座位困難との症状が後遺障害等級表の第14級第9号に該当すると認定されており,これを加重したものとはいえず,後遺障害には該当しない,④右下肢及びしびれの症状については,将来においても回復が困難と見込まれる障害とはいえず,後遺障害には該当しないと判断された。

裁判所の判断

 原告は,別件事故一によって腰痛等の後遺障害が,別件事故二によって頸椎捻挫後の右上肢しびれの後遺障害が残存したことが認められるものの,いずれの後遺障害も「局部に神経症状を残すもの」として,後遺障害等級表の第14級第9号に該当する程度にとどまること,本件事故は,別件事故一による後遺障害の症状固定日から約7年,別件事故二による後遺障害の症状固定日から約2年10か月経過した後に発生したものであることを認めることができる。このような別件事故一ないし別件事故二による後遺障害の程度や本件事故までの間に相当期間が経過していることに加えて,原告は,平成24年7月に富士山に登頂した他,同年11月に野球の試合に4番一塁手として出場するなどしており,本件事故当時,積極的にスポーツをしていたこと,原告は,本件事故当時,腰痛や右上肢しびれの症状等のための通院等しておらず,別件事故一ないし別件事故二による後遺障害が残存していたことをうかがわせる証拠も見当たらないことを併せて考えれば,原告の別件事故一ないし別件事故二による後遺障害は,本件事故当時,残存していたと認めることはできない(なお,このように解することは,一般に,後遺障害等級表の第14級第9号の神経症状についての後遺障害に係る労働能力喪失期間が3から5年程度に制限されていることとも整合的である。)。

 ①本件事故は,被告車の原告車への衝突によって,原告車が横転し,一回転し大破,全損となった態様であること,②原告は,本件事故によって,頸椎捻挫,頸部神経根症,腰椎捻挫,右坐骨神経痛及び右第八,九肋骨骨折の傷害を負ったと診断され,右上肢痛・しびれ及び腰部痛等の後遺障害が残存した(症状固定日平成25年7月23日)と診断されていること,③自賠責保険の後遺障害等級認定手続において,本件事故による頸部受傷後の右上肢痛・しびれ及び腰部痛の症状については,後遺障害等級表の第14級第9号に該当する後遺障害が残存していることは否定されていないことを認めることができる。これらの事実に加えて,原告の治療状況や症状の経過を併せて考えれば,原告には,頸部受傷後の右上肢痛・しびれ及び腰部痛の症状について後遺障害が残存しており,これは「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級表の第14級第9号に相当するというべきである。
 したがって,原告は,本件事故によって,後遺障害等級表の第14級第9号に相当する後遺障害を負ったと認めることができる。