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ドアミラー同士の接触事故でむち打ちの受傷を否定した裁判例(交通事故の裁判例)


ドアミラー同士の接触事故でむち打ちの受傷を否定した裁判例を紹介します。

東京高裁令和元年8月29日判決

 X1がその妻であるX2ほか1名を同乗させて会社所有の自動車を運転していたところ、Yが安全確認不十分のままYの運転する自動車を突如左側に寄せてきたため、両車両のドアミラー同士が接触する事故が発生した事案です。

 裁判所は、むち打ちの受傷を否定しました。

事案の概要

 X車両とY車両がほぼ並走していた際、X車両の右側ドアミラーとY車両の左側ドアミラーが接触した。ドアミラー以外には接触した箇所はなかった。

 事故直後には、X車両を運転していたX1も、助手席に同乗していたX2も、痛みを感じておらず、両名とも、X車両を降りて、ドアミラーの擦過痕を確認し、また、Yに対し、X1及びX2並びにX車両の後部座席に同乗していた両名の娘(当時8歳)が傷害を受けた旨の訴えをしたことはなかった。

 X1及びX2は、本件事故日の翌日である平成28年8月29日の夕方、一緒に、Aクリニック(診療科目としては、内科等を標榜し、整形外科は標榜していない。)に赴いて、C医師の診察を受け、X1は、頚椎症、腰部打撲及び股関節打撲と診断され、X2は、頚椎症、左肘打撲及び腰部打撲と診断された。

 X1及びX2は、同年9月5日、同月12日、同年10月4日及び同年11月2日にも、一緒に、Aクリニックに通院し、C医師の診察を受けた。

 X1は、同年8月30日から同年11月25日までの間、36回にわたり、D接骨院に通院し、E整復師(なお、E整復師は、X1の所属するサッカーチームのトレーナーを務めており、過去にX1の身体をケアしたことがある。)の施術を受けた。

 X2は、同年8月30日から同年11月4日までの間、6回にわたりX1と一緒にD接骨院に通院し、E整復師の施術を受けた。

裁判所の判断

 裁判所は、衝撃の程度が軽微だったこと、Xらの証言が信用できないこと等を理由に、むち打ちの受傷を否定しました。

 Y車両のドアミラーと接触した際、被Yの車両の右側ドアミラーが折り畳まれたというのであるから(折り畳まれたドアミラーが元の位置に戻ったか否かは、ひとまず措く。)、これにより衝撃は相当程度吸収されたものと考えられる。

 さらに、本件事故直後には、X車両を運転していたX1も、助手席に同乗していたX2も、痛みを感じておらず、両名とも、被Y車両を降りて、ドアミラーの擦過痕を確認したというのであり、また、Yに対し、X1及び2並びに被Y車両の後部座席に同乗していた両名の娘(当時8歳)が傷害を受けた旨の訴えをしたことはなかったというのである。

 そうすると、被Y車両を運転していたX1及び同乗していたX2が本件事故による衝撃を受けたとしても、その程度は、さほど大きなものであったとは考え難く、むしろ非常に軽微なものにすぎなかったものと推認するのが相当である。

 X1及びX2に他覚的所見がない以上、専ら両名の愁訴に基づくものであるというほかはなく、直ちに本件事故によって両名が受傷したことを裏付けるものとはいえない。むしろ、両名は、C医師に対し、本件事故の態様を「側方から衝突」とのみ説明したことがうかがわれるのであって、ドアミラー同士が接触したにとどまる実際の態様よりも誇張した説明をし、同医師が実際よりも深刻な事故であると判断した可能性も、直ちには排除できない。

 X1及びX2は、いずれも、Aクリニックを最初に受診した平成28年8月29日の時点でC医師から接骨院に通院するのもよいのではないかといわれた旨供述している。しかし、医師が接骨院への通院につき指示又は同意しているときは、その旨を診療録に記載するのが通常であると考えられるところ、X2に関するAクリニックの診療録には、同年8月29日から同年11月2日までの全通院期間を通じ、接骨院の受診につきC医師の指示ないし同意を示す記載がなく、X1に関するAクリニックの診療録にも、同年9月12日までは、接骨院の受診につき同医師の指示ないし同意を示す記載がなく、同年10月4日に初めて「マッサージなどもした方が良い」との記載があらわれるに至っていることからすれば、上記各供述はたやすく信用することができない。

 X1の陳述書には、本件事故直後、X車両のドアミラーは折り畳まれた状態であった旨記載されているが、X1は原審における本人尋問では、折り畳まれたドアミラーが戻っていく場面を見た旨供述しており、陳述書と本人尋問の結果にそごがあるところ、X1は、上記そごについて合理的な説明をしているとはいえない。

 X2の陳述書には、本件事故直後、X1が被Y車両を降りたものの、X2と子供は車内に残った旨記載されているが、X2は原審における本人尋問では、X1のみならず、X2も被Y車両を降りて同車両のドアミラーの擦過痕を確認した旨供述しており、陳述書と本人尋問の結果にそごがあるところ、X2は、上記そごについて合理的な説明をしているとはいえない。

 このように、X1及びX2の各陳述書並びに原審における各本人尋問の結果は、信用性に欠ける部分があるものといわざるを得ず、したがって、両名の受傷に関する部分についても、たやすく信用できないものというべきである。

 ①本件実況見分調書は、X1とYが立ち会って、本件事故の現場における実況見分が実施された際の記録であるが、これには、「本件は物損事故から人身事故に切り替えたものである。」との記載がある。②Yの加入するBの担当者の作成に係る交渉経過一覧表には、本件事故日の翌日である同年8月29日の午前11時、X1は、架電した同担当者に対し、X1には過失がない旨主張し、同担当者がYの過失の方が大きいものの、X1にも過失がある旨の説明をすると、X1は、「自分の過失ゼロを認めてくれないならば、人身にしてもらう。これから、病院で診てもらう。」と述べた旨の記載がある。③被Y車両の後部座席に同乗していたX1及びX2の娘(当時8歳)が、本件事故後、痛みを訴えたり、通院したりした形跡がない。以上のことに照らせば、X1は、Yの加入するBの担当者がX1の過失なしとの主張を認めないことに憤慨し、本件事故が物損事故にとどまらず、人身事故でもあるとの主張をするため、Aクリニックを受診し、X2にも受診させた疑いがある旨のYの主張も、直ちにはこれを排斥できない。

 したがって、本件事故によってX1及びX2が受傷したと認めることはできないから、本件事故により両名の損害が発生したということもできない。


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