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人身傷害保険の代位の範囲について、裁判(訴訟)基準差額説に立つと判断した最高裁判決


交通事故で被害者が人身傷害保険を先に受領した場合の人身傷害保険の代位の範囲を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁平成24年2月20日判決

 交通事故の被害者が人身傷害保険を先に受領した場合の人身傷害保険の代位の範囲が争われた判決です。この判決で、最高裁は、裁判(訴訟)基準差額説に立つことを明らかにしました。

にゃソラ

裁判(訴訟)基準差額説については、以下の「人身傷害保険の代位の範囲」を参照

人身傷害保険の代位の範囲(交通事故の保険)

人身傷害保険の保険代位の問題を解説します。

 また、この最高裁判決は、人身傷害保険を損害賠償の元本に充当するのか?遅延損害金に充当するのか?についても判断しています。

事案の概要

 Aは、平成17年5月1日午後6時40分頃、横断歩道の設けられていない道路を横断中、前方注視を怠るなどして上記道路を進行してきたYが運転し、Yが保有する普通乗用自動車に衝突され、脳挫傷、気管挫裂傷等の傷害を負い、入院治療を受けたが、同年11月26日、死亡した。

 本件事故によりAが被った損害は合計7,828万2,219円であるが、本件事故におけるAの過失割合が10%であることから、上記割合により過失相殺をすると、AがYらに対して賠償請求をすることができる損害金の額は、7,045万3,997円となる。Aの両親であるXらは、AのYらに対する損害賠償請求権を2分の1ずつ相続により取得した。

 Xらは、本件事故によりAが被った損害につき、公立学校共済組合から123万9,297円の、Yから793万0,904円の各支払を受けた。その結果、XらがYらに対して賠償請求をすることができるAの損害金の残元本は、7,045万3,997円から上記各支払額を控除した6,128万3,796円となった。

 X固有の損害は、270万円であり、X固有の損害は、160万円である。

 Xは、本件事故当時、B保険会社との間で、人身傷害条項のある普通保険約款が適用される自動車保険契約を締結しており、Aは、上記条項に係る被保険者であった。

 本件約款中の人身傷害条項には、要旨、次のような定めがあった。

(1) B保険会社が保険金を支払うべき損害の額は、本件約款所定の算定基準に従い算定された金額の合計額(人傷基準損害額)とする。

(2) B保険会社が支払う保険金の額は、人傷基準損害額から①保険金請求権者が賠償義務者から既に取得した損害賠償金の額及び②損害を補償するために支払われる給付で保険金請求権者が既に取得したものがある場合はその取得額等を差し引いた額とする。

(3) 保険金請求権者が他人に損害賠償の請求をすることができる場合には、B保険会社は、その損害に対して支払った保険金の額の限度内で、かつ、保険金請求権者の権利を害さない範囲内で、保険金請求権者がその他人に対して有する権利を取得する。

(4)本件約款には、B保険会社が損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めはない。

 Aについての人傷基準損害額は、6,741万7,099円である。Xらは、平成19年10月25日、本件事故によりAが被った損害につき、B保険会社から、本件約款中の人身傷害条項に基づき、保険金として、上記の人傷基準損害額から上記各支払額を差し引いた5,824万6,898円の支払を受けた。

 Xの請求(当審における減縮後のもの)は、以下の金員の支払を求めるものである。

 ①Aの損害金の残元本の2分の1である924万3,908円

 ②固有の損害金元本330万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金(民法所定年5分の割合によるもの)41万0,465円

 ③①924万3,908円及び②330万円の合計1,254万3,908円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

 Xの請求(当審における減縮後のもの)は、以下の金員の支払を求めるものである。

 ①上記①と同じ

 ②固有の損害金元本210万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金26万1,205円

 ③①の924万3,908円及び②の210万円の合計1,134万3,908円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

最高裁の判断

 最高裁は、①人身傷害保険金は損害賠償の元本に充当される、②被害者に過失のある場合、裁判基準差額説を採ると判断しました。

人身傷害保険は、損害賠償の元本に充当するのか?遅延損害金に充当するのか?

 本件約款中の人身傷害条項に基づき、被保険者である交通事故等の被害者が被った損害に対して保険金を支払ったB保険会社は、上記保険金の額の限度内で、これによって塡補される損害に係る保険金請求権者の加害者に対する賠償請求権を代位取得し、その結果、B保険会社が代位取得する限度で、保険金請求権者は上記請求権を失い、上記請求権の額が減少することとなるところ、B保険会社がいかなる範囲で保険金請求権者の上記請求権を代位取得するのかは、本件保険契約に適用される本件約款の定めるところによることとなる。

 本件約款によれば、上記保険金は、被害者が被る損害の元本を塡補するものであり、損害の元本に対する遅延損害金を塡補するものではないと解される。そうであれば、上記保険金を支払ったB保険会社は、その支払時に、上記保険金に相当する額の保険金請求権者の加害者に対する損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって、損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではないというべきである。

人身傷害保険の代位の範囲

 被保険者である被害者に、交通事故の発生等につき過失がある場合において、B保険会社が代位取得する保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権の範囲について検討する。

 本件約款によれば、B保険会社は、交通事故等により被保険者が死傷した場合においては、被保険者に過失があるときでも、その過失割合を考慮することなく算定される額の保険金を支払うものとされているのであって、上記保険金は、被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として、被害者が被る実損をその過失の有無、割合にかかわらず塡補する趣旨・目的の下で支払われるものと解される。上記保険金が支払われる趣旨・目的に照らすと、本件代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」との文言は、保険金請求権者が、被保険者である被害者の過失の有無、割合にかかわらず、上記保険金の支払によって民法上認められるべき過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)を確保することができるように解することが合理的である。

 上記保険金を支払ったB保険会社は、保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように、上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り、その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。

 B保険会社は、本件保険金5,824万6,898円とAの損害金元本7,045万3,997円との合計額1億2,870万0,895円が、本件事故によりAが被った損害である7,828万2,219円を上回る部分である5,041万8,676円の範囲で、Aの損害金元本の支払請求権を代位取得し、その限度でXらがYらに請求することができるAの損害金の残元本の額が減少することとなる。

 Aの損害金の残元本6,128万3,796円から上記の5,041万8,676円を控除すると、XらがYらに請求することができるAの損害金の残元本は、1,086万5,120円となる。

Xの請求

 ①Aの損害金の残元本の2分の1である543万2,560円及びAの損害金の残元本6,128万3,796円に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の2分の1である381万1,348円

 ②固有の損害金元本270万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金33万5,835円

 ③①543万2,560円及び②の270万円の合計813万2,560円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

Xの請求

 ①Xの①と同じ

 ②固有の損害金元本160万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金19万9,013円

 ③①の543万2,560円及び②の160万円の合計703万2,560円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

交通事故発生日から人身傷害保険金受領までの遅延損害金

 最高裁判決は、人身傷害保険金を損害賠償の元本に充当すると判断しました。一方、交通事故発生日から人身傷害保険金を受領する日までに発生した遅延損害金の請求を認めています。


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