無保険車傷害保険に関する最高裁判決を紹介します。
最高裁平成18年3月28日判決
交通事故当時、胎児であった被害者が出生後に傷害が生じその結果後遺障害が残存した場合に、無保険車傷害保険の保険金請求ができるか?が争われた事案です。
事案の概要
被上告人X2は、被上告人X1の父であり、被上告人X3は、被上告人X1の母である。
平成11年1月5日午前10時ころ、被上告人X3の運転する自動が、交通整理の行われていない交差点において、Aの運転する自動車と衝突する事故が発生した。本件事故は、Aの加害車両の運転における過失に起因するものである。
本件事故当時、被上告人X3は、妊娠34週目であったが、本件事故後運ばれた病院で緊急帝王切開手術を受けて、同日午後0時58分、被上告人X1を出産した。
被上告人X1は、重度仮死状態で出生し、「低酸素性脳症、てんかん」の傷害を負い、病院に入院して治療を受けた。平成12年12月5日、被上告人X1の症状が固定し、重度の精神運動発達遅滞(痙性四肢麻痺)の後遺障害が残存した。被上告人X1の後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令(平成13年政令第419号による改正前のもの)別表第1級3号に該当する。被上告人X1の上記傷害及び後遺障害は、本件事故により引き起こされたものである。
被上告人X2は、上告人との間で、被害車両を被保険自動車とし、被上告人X2を記名被保険者とする自家用自動車総合保険契約を締結していた。
本件保険契約に係る保険約款には、無保険車傷害条項があり、同条項には、次のような定めがあった。
上告人は、無保険自動車の所有、使用又は管理に起因して、被保険者の生命が害されること、又は身体が害され、その直接の結果として後遺障害が生じることによって被保険者又はその父母、配偶者若しくは子が被る損害に対して、賠償義務者がある場合に限り、保険金を支払う。
被保険者とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
(ア) 記名被保険者
(イ) 記名被保険者の配偶者
(ウ) 記名被保険者又はその配偶者の同居の親族
(エ) 記名被保険者又はその配偶者の別居の未婚の子
(オ) 前各号以外の者で、被保険自動車の正規の乗車装置又は当該装置のある室内に搭乗中の者
最高裁の判断
最高裁は、次のように判断し、無保険車傷害保険の保険金請求を肯定しました。
民法721条により、胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなされるから、胎児である間に受けた不法行為によって出生後に傷害が生じ、後遺障害が残存した場合には、それらによる損害については、加害者に対して損害賠償請求をすることができると解される。前記事実関係によれば、被上告人X1には、胎児である間に発生した本件事故により、出生後に本件傷害等が生じたのであるから、被上告人らは、本件傷害等による損害について、加害者に対して損害賠償請求をすることができるものと解される。
本件約款の定めによると、無保険車傷害条項に基づいて支払われる保険金は、法律上損害賠償の請求権があるが、相手自動車が無保険自動車であって、十分な損害のてん補を受けることができないおそれがある場合に支払われるものであって、賠償義務者に代わって損害をてん補するという性格を有するものというべきであるから、本件保険契約は、賠償義務者が賠償義務を負う損害はすべて保険金によるてん補の対象となるとの意思で締結されたものと解するのが相当である。
被上告人X1は、本件保険契約の記名被保険者の子であり、上記のとおり、被上告人らは、本件傷害等による損害について、加害者に対して損害賠償請求をすることができるのであるから、被上告人らは、本件傷害等による損害について、記名被保険者の同居の親族に生じた傷害及び後遺障害による損害に準ずるものとして、本件約款の無保険車傷害条項に基づく保険金を請求できると解するのが相当である。