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自動車の同乗者に対する安全配慮義務(交通事故の判例)


自動車の同乗者に対する安全配慮義務を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁昭和58年5月27日判決

 安全配慮義務違反に基づく国家賠償請求において、履行補助者による自動車運転上の注意義務違反が安全配慮義務違反といえるか?が問題になった事案です。

事案の概要

 陸上自衛隊第三三一会計隊長であるA一尉は、昭和42年6月29日、北海道岩見沢の第三二七会計隊から臨時勤務者(車両操縦手)として派遣されてきていたB一等陸士の勤務時間が終了したので同人を原隊に送り届けることになったが、当時第三三一会計隊には自衛隊の車両操縦手の資格を有している者がなく、幹部で公安委員会の運転免許を有しているC二尉も当日不在であったためと業務連絡の都合上、公安委員会の運転免許を有しているA一尉が自ら運転することとした。

 その際A一尉は、会計隊長として、約一か月前に公安委員会の運転免許を取得し、将来操縦手の資格を取得させようと考えていた亡Xに対し、その教育準備として道路状況の把握,車両操縦の実地の見学、第三二七会計隊の見学等のほか運転助手を勤めさせる目的で、第三三一隊装備の4分の1トントラックに同乗を命じた。

 A一尉は、本件事故車を運転してB一等陸士を第三二七会計隊に送り届けたのち帰途につき、同日午後1時40分ころ、北海道岩見沢市幌向町中幌向先国道12号線上を岩見沢市方面から幌別市方面へ向け進行中、国道補修工事のため補装部分の幅が狭くなつた道路部分にさしかかり、同所を時速約35ないし40キロメートルの速度で通過したが、その直後、道路の舗装部分の幅が広くなったところに出て時速約45ないし50キロメートルに急加速したため、本件事故車の後輪を左に滑走させ、狼狽の余りハンドルを切り返して進路を正常に復させる余裕もないまま、本件事故車を道路上で回転させて反対車線に進入させ、折から対面進行してきたD運転の大型貨物自動車の右前部に、自車右側面部を衝突せしめ、その衝撃によって、本件事故車に同乗していた亡Xに頭蓋血腫、脳挫傷の傷害を負わせ、同人を同月30日午前5時55分に死亡させた。

 A一尉は、事故当時降雨のため路面が濡れていたばかりでなく、補修工事に際し補修部分に塗布したアスファルトが本件事故車の進路の舗装路面上に約47メートルの長さに亘って付着し、そのため路面が極めて滑走し易い状況にあつたにもかかわらず、路面にアスファルトが付着していたのを看過して滑走等の危険はないものと軽信し、漫然アクセルペダルを踏み込んで前記のとおり加速した。

最高裁の判断

 最高裁は、以下のように、国の安全配慮義務違反を否定しました。

 国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設若しくは器具等の設置管理又は公務員が国若しくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理に当たって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っている。当該義務は、国が公務遂行に当たって支配管理する人的及び物的環境から生じうべき危険の防止について信義則上負担するものであるから、国は、自衛隊員を自衛隊車両に公務の遂行として乗車させる場合には、自衛隊員に対する安全配慮義務として、車両の整備を十全ならしめて車両自体から生ずべき危険を防止し、車両の運転者としてその任に適する技能を有する者を選任し、かつ、当該車両を運転する上で特に必要な安全上の注意を与えて車両の運行から生ずる危険を防止すべき義務を負うが、運転者において道路交通法その他の法令に基づいて当然に負うべきものとされる通常の注意義務は、安全配慮義務の内容に含まれるものではなく、また、安全配慮義務の履行補助者が車両にみずから運転者として乗車する場合であっても、履行補助者に運転者としてのそのような運転上の注意義務違反があったからといつて、国の安全配慮義務違反があったものとすることはできない。

 本件事故は、A一尉が車両の運転者として、道路交通法上当然に負うべきものとされる通常の注意義務を怠ったことにより発生したものであることが明らかであって、他に国の安全配慮義務の不履行の点は認め難いから、国の安全配慮義務違反はないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。


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