搭乗者保険と正規の乗車用構造装置(交通事故の判例)

搭乗者傷害保険に関する最高裁判決を紹介します。

最高裁平成7年5月30日判決

 搭乗者傷害保険における「正規の乗車用構造装置のある場所」の意義が問題になった事案です。

事案の概要

 Aは,その所有する普通乗用自動車につき,昭和62年5月24日,上告人との間で,搭乗者傷害保険を含む自動車保険契約を締結した。保険契約中搭乗者傷害保険に関する部分は,自家用自動車保険普通保険約款中の搭乗者傷害条項に従ったもので,「正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者」を被保険者とし,被保険者が被保険自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により身体に傷害を被り,その直接の結果として,事故の発生の日から180日以内に死亡したときは,死亡保険金500万円を被保険者の相続人に支払う旨の条項が含まれていた。

 昭和62年10月4日,広島県福山市内の国道上において,Aの運転する本件自動車が転回中に後方から走行して来た大型貨物自動車に追突され,本件自動車に同乗していたBは事故により脳挫傷等の傷害を負い,同月6日死亡した。被上告人らはBの父母であり,その相続人である。

 本件自動車はいわゆる貨客兼用自動車であり,後部座席の背もたれ部分を前方に倒して折り畳むことにより,折り畳まれた後部座席背もたれ部分の背面と車両後部の荷台部分とが同一平面となってこれを一体として利用することができる構造になっていた。本件事故当時,本件自動車の後部座席は折り畳まれた状態で,この場所には洗剤,鍋等の商品が積まれていたが,Bは,この場所に商品の脇に少し身体を起こした状態で横たわって乗車していたところ,上記大型貨物自動車に追突された衝撃により,本件自動車後部の貨物積載用扉が開き,商品と共に路上に投げ出された。

最高裁の判断

 搭乗者傷害条項にいう「正規の乗車用構造装置のある場所」とは,乗車用構造装置がその本来の機能を果たし得る状態に置かれている場所をいうものと解するのが相当である。

「乗車用構造装置」とは,車両に搭乗中の者が車両の走行による動揺,衝撃等によって転倒,転落することを防止し,その安全を確保するための装置をいうものと解すべきところ,搭乗者傷害条項は,車両に搭乗中の者が,当該装置が本来の機能を果たし得る状態に置かれている場所に搭乗していたにもかかわらず発生した事故によって生じた損害を補填することを目的とするものであって,それ以外の場所,すなわち当該装置が本来の機能を果たし得ない状態に置かれている場所に搭乗中に発生した事故による損害まで補填しようとするものではないというべきだからである。

 上記事実関係によれば,本件事故当時Bが乗車していた場所は,いわゆる貨客兼用自動車の後部座席の背もたれ部分を前方に倒して折り畳み,折り畳まれた後部座席背もたれ部分の背面と車両後部の荷台部分とを一体として利用している状態にあったというのであるから,この状態においては,後部座席はもはや座席が本来備えるべき機能,構造を喪失していたものであって,この場所は,搭乗者傷害条項にいう「正規の乗車用構造装置のある場所」に当たらないというべきである。