交通事故の被害者の近親者の交通費が損害として認められるか?を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁昭和48年4月25日判決
交通事故の被害者の近親者が、看護等のため被害者の許に往復した場合の交通費が、損害として認められるか?が争われた事案です。
事案の概要
被上告人は、昭和43年8月26日本件交通事故により脳挫傷、左大腿挫創、腰部打撲傷の傷害を受け、直ちに外科病院に入院した。入院当時は危篤状態で一週間にわたり意識が混濁した状況にあり、その後精神障害治療のため、同年10月5日から同年11月29日まで56日間他の病院に転入院し、その後さらに同月30日から昭和45年10月21日までの間27回にわたり病院に通院して治療を受けた。
被上告人の娘であるAは、ウイーンに留学すべく昭和43年8月24日横浜からナホトカ経由で出発したが、途中モスクワに到着した際、本件交通事故の通知を受けたため同年9月6日急遽帰国し、翌7日から入院中の被上告人に付添って看護し、昭和44年4月改めてウイーンに赴いた。
その結果、被上告人がAのために調達した留学のための諸費用のうち横浜からナホトカ経由ウイーンまでの旅費13万2,244円が無駄となったのみならず、被上告人はAが帰国のために要したモスクワからナホトカ経由横浜までの旅費8万4,034円の支出を余儀なくされた。
最高裁の判断
交通事故等の不法行為によって被害者が重傷を負ったため、被害者の現在地から遠隔の地に居住又は滞在している被害者の近親者が、被害者の看護等のために被害者の許に赴くことを余儀なくされ、それに要する旅費を出捐した場合、当該近親者において看護等のため被害者の許に赴くことが、被害者の傷害の程度、当該近親者が看護に当たることの必要性等の諸般の事情からみて社会通念上相当であり、被害者が近親者に対し旅費を返還又は償還すべきものと認められるときには、当該旅費は、近親者が被害者の許に往復するために通常利用される交通機関の普通運賃の限度内においては、当該不法行為により通常生ずべき損害に該当するものと解すべきである。
国際交流が発達した今日、家族の一員が外国に赴いていることはしばしば見られる事態であり、また、日本にいるその家族の他の構成員が傷病のため看護を要する状態となった場合、外国に滞在する者が、看護等のために一時帰国し、再び外国に赴くことも容易であるといえるから、前示の解釈は、被害者の近親者が外国に居住又は滞在している場合であっても妥当する。
Aが被上告人の看護のため一時帰国したことは社会通念上相当というべきであり、本件旅費は、被上告人がAに代って又は同人に対して支払うべきものであるから、被上告人が被った損害と認めるべきものである。その額もウイーンに赴き又はモスクワから帰国するために通常利用される交通機関の普通運賃額を上回るものでないことが明らかであるから、本件旅費は被上告人が本件交通事故により被った通常生ずべき損害であるといわなければならない。