民法722条の過失相殺は、被害者のみならず、被害者側の過失についても斟酌されます(被害者側の過失参照)。これに関連して共同で暴走行為を行った場合の過失相殺について判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁平成20年7月4日判決
AとBが自動二輪車を交代で運転しながら共同して暴走行為を繰り返し、速度超過で走行し、かつ、前方進路の安全を注意することなく走行したため、前方の走行車線ふさぐ状態で停止していたパトカーに衝突し、Bが死亡した事案です。Aの過失を斟酌することができるか?が争われました。
事案の概要
A及びBは、中学校時代の先輩と後輩の関係であり、平成13年8月13日午後9時ころから、友人ら約20名と共に、自動二輪車3台、乗用車数台に分乗して、集合、離散しながら、空吹かし、蛇行運転、低速走行等の暴走行為を繰り返した。Bは、ヘルメットを着用せずに、消音器を改造した自動二輪車にAと二人乗りし、交代で運転をしながら走行していた。
C警察官らは、付近の住民から暴走族が爆音を立てて暴走している旨の通報を受け、同日午後11時20分ころ、これを取り締まるためにC警察官が運転するパトカー及び他の警察官が運転する小型パトカーの2台で出動した。上告人は、本件パトカーの運行供用者である。
C警察官は、国道313号線を走行中、同日午後11時35分ころ、本件自動二輪車が対向車線を走行してくるのを発見し追跡したが、本件自動二輪車が転回して逃走したためこれを見失い、いったん本件国道に面した商業施設の駐車場に入って本件パトカーを停車させた。また、本件小型パトカーも本件駐車場に入って停車していた。本件駐車場先の本件国道は片側1車線で、制限速度は時速40kmであった。
同日午後11時49分ころ、Aが運転しBが同乗した本件自動二輪車が本件国道を時速約40㎞で走行してきたため、C警察官は、これを停止させる目的で、本件パトカーを本件国道上に中央線をまたぐ形で斜めに進出させ、本件自動二輪車が走行してくる車線を完全にふさいだ状態で停車させた。
付近の道路は暗く、本件パトカーは前照灯及び尾灯をつけていたが、本件自動二輪車に遠くから発見されないように、赤色の警光灯はつけず、サイレンも鳴らしていなかった。
Aは、本件駐車場内に本件小型パトカーが停車しているのに気付き、時速約70~80㎞に加速して本件駐車場前を通過し逃走しようとしたが、その際、友人が捕まっているのではないかと思い、本件小型パトカーの様子をうかがおうとしてわき見をしたため、前方に停車した本件パトカーを発見するのが遅れ、回避する間もなく、その側面に衝突した。
Bは、本件事故により頭がい骨骨折等の傷害を負い、同月14日午前1時13分ころ死亡した。
最高裁の判断
最高裁は次のように述べ、Bの損害賠償額の算定に当たって,Aの過失を過失相殺として斟酌することができると判断しました。
AとBは、本件事故当日の午後9時ころから本件自動二輪車を交代で運転しながら共同して暴走行為を繰り返し、午後11時35分ころ、本件国道上で取締りに向かった本件パトカーから追跡され、いったんこれを逃れた後、午後11時49分ころ、Aが本件自動二輪車を運転して本件国道を走行中、本件駐車場内の本件小型パトカーを見付け、再度これから逃れるために制限速度を大きく超過して走行するとともに、一緒に暴走行為をしていた友人が捕まっていないか本件小型パトカーの様子をうかがおうとしてわき見をしたため、本件自動二輪車を停止させるために停車していた本件パトカーの発見が遅れ、本件事故が発生した。
以上のような本件運転行為に至る経過や本件運転行為の態様からすれば、本件運転行為は、BとAが共同して行っていた暴走行為から独立したAの単独行為とみることはできず、上記共同暴走行為の一環を成すものというべきである。
したがって、上告人との関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては、公平の見地に照らし、本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができると解すべきである。