交通事故の損害賠償におけるシートベルトの不着用と過失相殺の問題を取上げます。
シートベルトの不着用と過失相殺
交通事故車両の同乗者が、シートベルトを装着せずに同乗していたことが、同乗者の損害賠償請求において、加害者側から過失相殺事由として主張されることがあります。
シートベルトは、運転者や同乗者の生命・身体を保護するものです。シートベルトを装着していない場合、自ら損害の発生・拡大を防止する努力を怠ったと評価することができます。
したがって、シートベルトを装着しなかった同乗者の損害賠償において、過失相殺を肯定することができると考えられます。
しかし、シートベルトの不着用に対する処罰規定はなく、同乗者に直接、シートベルトの装着を義務付ける規定はありません。このことを重視すると、シートベルトの不着用を理由とする過失相殺に一定の限界があるとも考えられます。
下級審の裁判例
シートベルトの不着用と過失相殺について判断した最高裁判決はありません。下級審の裁判例では、否定例と肯定例と判断が分かれています。
否定例の理由
シートベルトの不着用を理由とする過失相殺を否定した裁判例は、以下のような理由で過失相殺を否定しています。
過失相殺を否定した裁判例の主な理由
(1)シートベルトの不着用と同乗者の損害との因果関係が認められない。
(2)後部座席の同乗者にシートベルトを装着させる義務は努力義務にすぎない。
(3)同乗車両の運転者の過失相殺の主張に対して、運転者自身も同乗者にシートベルトを装着させる義務を怠ったとして、過失相殺を否定した。
肯定例の理由
シートベルトの不着用を理由とする過失相殺を肯定した裁判例は、シートベルトの不着用が損害の発生又は拡大を招いたとして過失相殺を肯定しています。
シートベルトの不着用を理由とする過失相殺が認められるとして、どの程度の減額が相当か?という問題があります。過失相殺を肯定した裁判例は、おおむね5%又は20%の減額をしています。
後部座席より助手席の方が、過失相殺の割合は大きい傾向にあるようです。