交通事故の損害賠償請求の消滅時効の更新事由に関して、保険会社への請求が時効の更新事由になるかどうか?という問題があります。
消滅時効の更新
消滅時効は、請求・差押え・承認等の民法所定の時効の更新事由があれば、更新されます(民法147条1項)。保険会社への請求や、保険会社からの支払が時効の更新事由になるのかどうかが、実務上問題になることがあります。
自賠責保険会社への請求
交通事故の被害者は、加害者の自賠責保険会社に対して、損害賠償額の支払を請求することができます。これを16条請求や被害者請求と呼んでいます。
では、被害者の16条請求に対して、自賠責保険会社が支払を行った場合に、損害賠償請求権の消滅時効が更新するのでしょうか?結論からいうと、消滅時効は更新しないと解されています。
加害者に対する損害賠償請求権と自賠責保険会社に対する損害賠償額の請求権は、法律上は別個の権利であって、両者は不真正連帯債務と解されています。また、自賠責保険会社は加害者の代理人的な立場にはありません。
したがって、被害者の16条請求に対して、自賠責保険会社が支払を行ったとしても、加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効は更新することはありません。
任意保険会社からの支払
交通事故の場合、加害者が任意保険に加入していると、損害額が確定していない段階でも、任意保険会社が医療機関に治療費を支払ったり、被害者に休業損害を支払ったりすることがあります。
任意保険会社の支払は、保険契約に基づき、被保険(加害者)の同意を得て、加害者の損害賠償債務の支払を行っており、加害者の代理人として、被害者に支払を行っていると評価できます。
したがって、任意保険会社からの支払は、代理人による債務の承認として、消滅時効の更新事由になると解されています。