責任無能力による運行供用者責任の免責が認められるかを判断した裁判例を紹介します。
東京地裁平成25年3月7日判決
自賠法4条は、運行供用者責任について、民法の規定を準用しています。民法713条は、行為者が責任能力を欠いている場合は、賠償責任を免れると規定しています。
この判決は、責任能力を欠いている場合に、運行供用者責任を免れるか?が問題になった判決です。
事案の概要
平成21年9月1日午後9時44分頃、横浜市中区内において,駐車車両の右側を通過しようとした、被告が運転する被告と、その対向方向から進行してきたAが運転する原告車とが正面衝突する交通事故が発生した。
A(本件事故当時17歳)は、本件事故により頭部外傷等の傷害を負い、平成21年9月1日、病院に搬送され、入院して手術等により治療を受けたが、同月20日、大脳腫脹による脳幹部圧迫のため死亡した(死亡当時18歳)。
被告は、本件事故について、Aを救護する等必要な措置を講じず(救護義務違反)、かつ、本件事故発生の日時及び場所等を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった(報告義務違反)との公訴事実(道路交通法違反)で公訴提起されたが、横浜地方裁判所は、平成24年3月21日、救護義務違反については故意を認めることができず、報告義務違反については故意は認められるものの責任能力を認めることができないとして、被告に対し、無罪の判決を言い渡し、同判決は確定した。
本件訴訟において、被告は、本件事故当時、無自覚性低血糖に起因する意識障害により責任能力を欠いた状態であったから、自賠法3条本文に基づく損害賠償義務を負わないと主張した。
裁判所の判断
東京地裁は、運行供用者責任について、民法713条の準用を否定しました。
自賠法3条は、自動車の運行に伴う危険性等に鑑み、被害者の保護及び運行の利益を得る運行供用者との損害の公平な分担を図るため、自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償責任に関し、過失責任主義を修正して、運行を支配する運行供用者に対し、人的損害に係る損害賠償義務を負わせるなどして、民法709条の特則を定めたものであるから、このような同条の趣旨に照らすと、行為者の保護を目的とする民法713条は、自賠法3条の運行供用者責任には適用されないものと解するのが相当である。
したがって、被告は、自賠法3条本文に基づき、本件事故による人的損害に係る損害賠償責任を免れない。