交通事故で請求できる損害の内、会社役員の休業損害を取上げます。
役員の休業損害は労務提供の対価部分のみ
会社と役員の関係は、労働契約ではなく、委任契約です(会社法330条)。役員報酬は、委任契約の対価としての支払いということになります。
交通事故によって、役員が就労ができない場合、必ずしも減収が生じるとは限りません。会社役員が会社からもらう役員報酬には、利益配当部分と労務提供対価部分が存在します。利益配当部分は、役員の地位にある限り、支払われます。つまり、就労できなくても支払われるので、休業損害が認められるのは、労務提供対価部分のみです。
労務提供の対価部分の認定
では、役員報酬の内、労務提供の対価部分をどうやって認定するのでしょうか?
会社の規模・利益状況、役員の地位・職務内容、年齢、役員報酬の額、他の役員・従業員の職務内容・報酬・給料の金額、事故後の役員報酬額の推移、類似法人の役員報酬の支払い状況等を総合考慮して、労務提供の対価部分を個別具体的に判断することになります。
なお、会社からの収入が役員報酬と給与に分けて処理されていて、実態を反映しているのであれば、少なくとも給与については、労務対価部分といえます。しかし、実態を反映していないことが多く、支払名目から判断するのは、通常は困難ということができます。
実質的に個人事業主という場合
交通事故の被害者からは、会社とはいえ、実質的に個人事業主と変わらないという主張がなされることがあります。しかし、法人である会社と個人事業主をまったく同列に扱うことはできないというのが裁判実務の考えだと思われます。
この場合も、役員報酬額を前提に労務提供の対価部分を判断することになるでしょう。実質的に一人で会社の利益を上げているような場合は、労務提供の対価部分の割合は高く判断されると考えられます。
休業損害の立証方法
立証方法としては、役員報酬額がわかる確定申告書等、会社の実態、役員の職務内容等の陳述書や証言、法人税の確定申告書・付属書類等が考えられます。