外貌醜状は、頭部・顔面部・頚部のように、上下肢以外の日常露出する部分に醜状を残す後遺障害です。後遺障害が外貌醜状の場合、後遺障害による逸失利益が損害として認められるのでしょうか?
外貌醜状の後遺障害による逸失利益
外貌醜状は、事務作業や肉体労働など、通常の労働にとって、特に影響を及ぼすわけではありません。そのため、後遺障害による逸失利益がそもそも発生しないのではないか?が問題になる後遺障害です。
労災保険の考え方
自賠責保険が準拠している労災保険は、後遺障害を労働能力を喪失するものと捉えています。京都地裁平成22年5月27日判決を受け、「外貌の醜状障害に関する後遺障害等級認定基準について」(平成23年2月1日基発201第2号)によって、認定基準が改正されました。
認定基準改正に際して開催された専門検討会において、次のように言及されていることが参考になります。
外貌醜状について、労災の考え方
外貌の障害自体は労働能力を直接の喪失をもたらすものではない。しかしながら、外貌の障害が現状はもちろん将来にわたる就業制限、職種制限、失業、職業上の適格性の喪失等の不利益をもたらし、結果として労働者の稼得能力を低下させることは明らかである。
裁判例の考え方
外貌醜状の後遺障害による逸失利益に関して、裁判例は、おおむね次のようの考え方によって判断しています。
外貌醜状の後遺障害による逸失利益に関する裁判例の考え方
(1)醜状痕の存在のため、配置転換させられたり、職業選択の幅が狭められるなど、労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれのある場合、一定割合の労働能力の喪失を肯定し、後遺障害による逸失利益を認める。
(2)労働能力への直接的な影響は認めがたいが、対人関係、対外的な活動に消極的になるなど、間接的に労働能力に影響を及ぼすおそれがある認められる場合、後遺障害慰謝料の増額事由として考慮する。
労働能力に直接影響する場合
被害者の芸能人やモデル・ホステス等の容姿が重視される職業に就いている場合や男性でもアナウンサー・営業職・ウェイター等のそれなりの容姿が必要とされる場合には、顔面に醜状痕が残ったことで、ファンや客足が減る、内勤に配置転換され昇進が遅れる、転職に支障が生じるといった直接的な影響が生じることがあります。
このような場合は、自賠責保険の後遺障害等級表上の労働能力喪失率を参考に、被害者の職業・年齢・性別等を考慮し、外貌醜状が労働に与える影響を考慮して労働能力喪失率を認定することになります。
もっとも、上記に挙げた職業以外にも労働能力に対する影響がないというわけではありません。外貌醜状は、仕事をする上で必要な円満な人間関係の構築や円滑な意思疎通の実現を阻害する要因になりえます。外貌醜状によって喪失する労働能力には、このような対人関係の円滑化といった要素も把握すべきだと指摘されています。
労働能力への直接な影響が認められない場合
外貌醜状が労働能力への直接的な影響が認められない場合は,裁判例では,慰謝料の増額事由として斟酌されていることが多いです。増額される慰謝料の額としては,100万円から200万円の間とされることが裁判例の傾向といえます。