交通事故の損害賠償に関して、中間利息控除について判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁平成17年6月14日判決
交通事故の損害のうち、逸失利益などの将来の損害を現在価額に算定するために中間利息の控除が行われます。その際に使用する利率を民事法定利率で行うのか?が問題になった事案です。
事案の概要
被上告人らの子であるAは、平成13年8月18日、上告人の過失によって発生した交通事故により死亡した。被上告人らは、本件事故によるAの上告人に対する損害賠償請求権を法定相続分である各2分の1の割合で相続により取得した。
被上告人らは、不法行為等による損害賠償請求権に基づき、上告人に対し、本件事故による損害賠償を請求している。
原審の判断
原審は、中間利息控除を行う際の利率を裁判時の実質金利とすべきと判断しました。
交通事故による逸失利益を現在価額に換算する上で中間利息を控除することが許されるのは、将来にわたる分割払と比べて不足を生じないだけの経済的利益が一般的に肯定されるからにほかならないのであるから、基礎収入を被害者の死亡又は症状固定の時点でのそれに固定した上で逸失利益を現在価額に換算する場合には、中間利息の控除割合は裁判時の実質金利(名目金利と賃金上昇率又は物価上昇率との差)とすべきである。
民法404条は、利息を生ずべき債権の利率についての補充規定であり、実質金利とは異なる名目金利を定める規定であるので、これを実質金利の基準とすることの合理性を見いだすことはできない。また、旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)46条5号ほかの倒産法の規定や民事執行法88条2項の規定が弁済期未到来の債権を現在価額に換算するに際して民事法定利率による中間利息の控除を認めていることについては、いずれも利息の定めがなく、かつ、弁済期の到来していない債権を対象としており、弁済期が到来し、かつ、不法行為時から遅延損害金が発生している逸失利益の賠償請求権とは、その対象とする債権の性質を異にしているのであって、中間利息の控除割合についてこれらの規定を類推又はその趣旨を援用する前提を欠くものというべきである。
最高裁の判断
最高裁は、中間利息控除を行う際の利率は,民事法定利率によるべきと判断しました。
我が国では実際の金利が近時低い状況にあることや原審のいう実質金利の動向からすれば、被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は民事法定利率である年5%より引き下げるべきであるとの主張も理解できないではない。
しかし、民法404条において民事法定利率が年5%と定められたのは、民法の制定に当たって参考とされたヨーロッパ諸国の一般的な貸付金利や法定利率、我が国の一般的な貸付金利を踏まえ、金銭は、通常の利用方法によれば年5%の利息を生ずべきものと考えられたからである。そして、現行法は、将来の請求権を現在価額に換算するに際し、法的安定及び統一的処理が必要とされる場合には、法定利率により中間利息を控除する考え方を採用している。例えば、民事執行法88条2項、破産法99条1項2号(旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)46条5号も同様)、民事再生法87条1項1号、2号、会社更生法136条1項1号、2号等は、いずれも将来の請求権を法定利率による中間利息の控除によって現在価額に換算することを規定している。損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するについても、法的安定及び統一的処理が必要とされるのであるから、民法は、民事法定利率により中間利息を控除することを予定しているものと考えられる。
このように考えることによって、事案ごとに、また、裁判官ごとに中間利息の控除割合についての判断が区々に分かれることを防ぎ、被害者相互間の公平の確保、損害額の予測可能性による紛争の予防も図ることができる。上記の諸点に照らすと、損害賠償額の算定に当たり、被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は、民事法定利率によらなければならないというべきである。