交通事故の損害賠償の遅延損害金の起算日を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁平成7年7月14日判決
交通事故の損害賠償の遅延損害金の起算日が問題になった事案です。
ちなみに、自家用自動車普通保険約款に含まれる「第5条の規定に基づく訴訟又は被保険者が当会社の書面による同意を得て行った訴訟の判決による遅延損害金」を支払う旨の条項は、あくまで訴訟の判決による遅延損害金にのみ適用され、訴訟外で保険金を支払った場合、保険会社は遅延損害金の支払い義務を負わないという原審の判断は、最高裁で是認されています。
事案の概要
上告人の被上告人Aに対する本件請求は、昭和56年6月16日に発生した交通事故で脳挫傷等の傷害を負った上告人が加害車両の運行供用者である被上告人Aに対し、自動車損害賠償保障法3条に基づいて、①治療費、付添看護費、休業損害、後遺障害に基づく逸失利益、慰謝料等の弁護士費用を除く損害額のうちの5,000万円と弁護士費用500万円の合計5,500万円(弁護士費用を加えた総損害額から控除すべき金額を控除した額がこれより少ないときはその額)及びこれに対する昭和60年1月23日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、②弁護士費用を除く損害額から昭和60年1月22日までに支払われたものを控除した金額のうち9,782万9,678円(弁護士費用を除く損害額から上記日時までに支払われた額を控除した額がこれより少ないときはその額)に対する昭和56年6月16日(本件事故発生日)から昭和60年1月22日までの同じく年5分の割合による遅延損害金1,763万6,144円(ただし、上告における不服申立ては1,239万4,567円の範囲に限定されている。)の支払を求めるものである。
原審の判断
本件事故により上告人に生じた弁護士費用を除く損害額を9,112万4,381円、支払われた自賠責保険金等損害額から控除すべき額を合計8,050万8,170円と確定し、これを損害額から控除した1,061万6,211円に弁護士費用100万円を加算した1,161万6,211円を認容すべき損害賠償額として算出した。
上告人の請求は、上記金額とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和60年4月25日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分に限り認容すべきと判断した。本件事故の発生日である昭和56年6月16日から訴状送達の日である昭和60年4月24日までの遅延損害金の請求を以下の理由で棄却した。
本件で損害賠償金の支払が延引したのは、上告人が損害の総額やこれから控除すべき額を争ったことにある上、上告人の主張によっても、損害の残額の計算方法、各遅延損害金の起算日の特定が不可能であるところ、その主たる責任は上告人にあり、これを過失として相殺すべきであるから、認容すべき遅延損害金は、最終の認容額の1,161万6,211円に対する訴状送達の日の翌日以降のものに限定するのが相当である。
最高裁の判断
不法行為に基づく損害賠償債務は、損害の発生と同時に、なんらの催告を要することなく、遅滞に陥るものである。そして、同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする損害賠償債務は一個と解すべきであって、一体として損害発生の時に遅滞に陥るものであり、個々の損害費目ごとに遅滞の時期が異なるものではないから、同一の交通事故によって生じた身体傷害を理由として損害賠償を請求する本件において、個々の遅延損害金の起算日の特定を問題にする余地はない。また、上告人が損害額及びこれから控除すべき額を争ったからといって、これによって当然に遅延損害金の請求が制限される理由はない。
原判決が確定した弁護士費用を除く損害額9,112万4,381円から上告人が昭和60年1月22日までに支払を受けたことが記録上明らかな2,524万3,287円を控除した6,588万1,094円について、本件事故の発生日である昭和56年6月16日から昭和60年1月22日までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金を計算すると、その金額は1,187万6,646円となる。
したがって、上告人の遅延損害金の請求は、上記金額と原審が確定した弁護士費用を含む総損害額9,212万4,381円から、原審が控除すべきものとした8,050万8,170円を差し引いた残額1,161万6,211円に対する昭和60年1月23日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める部分は認容すべきである。