交通事故において、道路管理者の道路管理の瑕疵の有無が問題になった最高裁判決を紹介します。
最高裁昭和50年7月25日判決
運転者や車両に問題がなくても、道路の状態に問題があったために、交通事故が発生した場合、道路管理者である国等が責任を負うことがあります。本判決は、道路管理の瑕疵が問題になりました。
事案の概要
一審被告Aは、昭和40年10月17日午後、大型貨物自動車を運転して国道170号線を大阪府方面から南進中、橋本市小原田117番地山下弥七方付近において事故を起こし、前車輪やハンドル等に故障を生じたので、同国道の同市小原田一六番地の石油倉庫前まで車を移動させ、南方に向かって道路の左側端より左前車輪が約1.2メートル、左後車輪が約1.1メートルの間隔、道路中央線より左方に右前車輪が約0.53メートル右後車輪が約0.16メートルの間隔をそれぞれおき、道路に平行でない位置で駐車し、これを放置した。
それより約87時間後である同月21日午前6時過ぎごろ、Vは原動機付自転車を運転して国道170号線の左側部分を橋本駅方面に向かって時速約60キロメートルで南進中、上記大型貨物自動車の荷台右後部に激突し、頭蓋底骨折により即死した。
国道170号線の和歌山県下部分は、和歌山県知事が国の委任事務としてその管理責任を負い、同県橋本土木出張所において管理事務を担当し、管理に要する費用は全額上告人の負担すべきものとされていたが、当時同出張所にはパトロール車の配置がなく、工務課の技術員が物件放置の有無等を含めて随時巡視するだけで、常時巡視はしておらず、本件事故が発生するまで、故障した大型貨物自動車が道路上に長時間放置されたままであった。
最高裁の判断
最高裁は、以下のように判断し、道路管理者の賠償責任を肯定しました。
道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もって一般交通に支障を及ぼさないように努める義務を負うところ、上記国道の本件事故現場付近は、幅員7.5メートルの道路中央線付近に故障した大型貨物自動車が87時間にわたって放置され、道路の安全性を著しく欠如する状態であつたにもかかわらず、当時その管理事務を担当する橋本土木出張所は、道路を常時巡視して応急の事態に対処しうる看視体制をとっていなかつたために、本件事故が発生するまで故障車が道路上に長時間放置されていることすら知らず、まして故障車のあることを知らせるためバリケードを設けるとか、道路の片側部分を一時通行止めにするなど、道路の安全性を保持するために必要とされる措置を全く講じていなかったことは明らかである。
このような状況のもとにおいては、本件事故発生当時、同出張所の道路管理に瑕疵があったというのほかなく、してみると、本件道路の管理費用を負担すべき上告人は、国家賠償法二条及び三条の規定に基づき、本件事故によって被上告人らの被った損害を賠償する責に任ずべきであり、上告人は、道路交通法上、警察官が道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、道路の交通に起因する障害の防止に資するために、違法駐車に対して駐車の方法の変更・場所の移動などの規制を行うべきものとされていることを理由に、上記損害賠償責任を免れることはできないものと解するのが、相当である。