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政府保証事業のてん補と将来給付の控除


政府保証事業のてん補金に関して、将来給付の控除の可否に関する最高裁判決を紹介します。

最高裁平成21年12月17日判決

 政府保証事業のてん補金の支払いは、健康保険や労災保険等の法令に基づき支給される給付が存在する場合は、その支給の有無にかかわらず、てん補金からその給付を控除することになっています(自賠法73条1項)。

 てん補金からの控除について、被害者が支給を受けることとなる労災保険の将来の給付分も含めた年金の額を控除できるか?が問題になった事案です。

 最高裁は、加害者に対する損害賠償における控除の範囲と異なる判断をしました。

事案の概要

 被上告人は、平成15年11月1日、通勤途上、愛知県大府市内において、普通乗用自動車を運転中、信号を無視して進行してきた自動車に衝突され、同自動車は、そのまま走り去り行方不明となった。

 被上告人は、上記の衝突事故により、頸椎骨折、頸髄損傷、脊髄損傷、外傷性くも膜下出血等の傷害を負い、平成16年12月1日、第7頸髄節残存・以下完全四肢麻痺、膀胱直腸障害、脊柱変形障害等の後遺障害を残して症状が固定した(当時66歳)。本件後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表第1第1級1号に該当する。

 被上告人の本件後遺障害による損害額は、法定限度額である4,000万円を超える。

 被上告人は、労災保険法に基づく障害年金の受給権を取得し、平成17年1月17日、その支給決定(年額130万2,080円)を受けた。被上告人が平均余命期間上記支給決定に係る年金額の支給を受けると仮定した場合における支給総額の現在額は、1,622万6,520円である。

 被上告人は、平成17年2月25日、上告人に対し、自賠法72条1項前段に基づく損害のてん補を請求した。上告人は、本件後遺障害による損害のてん補として、被上告人の本件後遺障害による損害額を3,935万円と算定し、同金額から上記1,622万6,520円を控除した残額2,312万3,480円を支払うこととし、同年7月19日、被上告人に対し、これを支払った。

最高裁の判断

 最高裁は、以下のとおり、将来給付分の控除を認めました。

 自賠法73条1項は、被害者が健康保険法、労災保険法その他政令で定める法令に基づいて自賠法72条1項による損害のてん補に相当する給付を受けるべき場合には、政府は、その給付に相当する金額の限度において、同項による損害のてん補をしない旨を規定している。上記文言から明らかなとおり、これは、政府が自動車損害賠償保障事業として自賠法72条1項に基づき行う損害のてん補が、自動車損害賠償責任保険及び自動車損害賠償責任共済の制度によっても救済することができない交通事故の被害者に対し、社会保障政策上の見地から救済を与えることを目的として行うものであるため、被害者が他法令給付を受けられる場合にはその限度において保障事業による損害のてん補を行わないこととし、保障事業による損害のてん補を、他法令給付による損害のてん補に対して補完的、補充的なものと位置付けたものである。そして、自賠法73条1項の定める他法令給付には、保障事業の創設当時から、将来にわたる支給が予定される年金給付が含まれていたにもかかわらず、自賠法その他関係法令には、年金の将来の給付分を控除することなく保障事業による損害のてん補が先に行われた場合における他法令給付の免責等、年金の将来の給付分が二重に支給されることを防止するための調整規定が設けられていない。

 保障事業による損害のてん補の目的とその位置付けに加え、他法令給付に当たる年金の将来の給付分に係る上記の調整規定が設けられていないことを考慮すれば、自賠法73条1項は、被害者が他法令給付に当たる年金の受給権を有する場合には、政府は、当該受給権に基づき被害者が支給を受けることになる将来の給付分も含めて、その給付に相当する金額の限度で保障事業による損害のてん補をしない旨を定めたものと解するのが相当である。

 したがって、被害者が他法令給付に当たる年金の受給権を有する場合において、政府が自賠法72条1項によりてん補すべき損害額は、支給を受けることが確定した年金の額を控除するのではなく、当該受給権に基づき被害者が支給を受けることになる将来の給付分も含めた年金の額を控除して、これを算定すべきである。

 このように解しても、他法令給付に当たる年金の支給は、受給権者に支給すべき事由がある限りほぼ確実に行われるものであって(労災保険法9条等)、その支給が行われなくなるのは、上記事由が消滅し、補償の必要がなくなる場合や、本件のように傷病が再発し、傷病の治療期間中、障害年金額と同額の傷病年金が支給されることになる場合などに限られるのであるから、被害者に不当な不利益を与えるものとはいえない。

 被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権の額を確定するに当たっては、被害者が不法行為と同一の原因によって債権を取得した場合、当該債権が現実に履行されたとき又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるときに限り、被害者の被った損害が現実に補てんされたものとしてこれとの損益相殺が認められるが、自賠法73条1項は、被害者が加害者に対して有する損害賠償請求権を前提として、保障事業による損害のてん補と他法令給付による損害のてん補との調整を定めるものであるから、損益相殺の問題ではなく、上記と同列に論ずることはできない。


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