交通事故の損害賠償請において、予見可能性がないと判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁平成3年11月19日判決
交通事故の損害賠償請求において、事故発生について予見可能性がないとして、賠償責任を否定した判決です。
事案の概要
上告人は、昭和61年1月7日午後7時12分ころ、普通貨物自動車(上告人車)を運転し、岡山県玉野市内の道路を西方から東方に向かって直進し、本件交差点手前に差し掛かったが、体面信号が青色であること及び本件交差点を一台の自動車が東方から北方へ右折したものの、後続の郵便車が右折のため本件交差点内で停止し、上告人車の通過を待機する態勢にあることを確認し、本件交差点を安全に通過できるものと考えてそのまま進行した。
被上告人らの子であるAは、上記日時ころ、原動機付自転車を運転して、上記道路を東方から西方に向かって進行し、右折するため青色信号に従って本件交差点内に進入し、上告人車の通過を待つために停止中の郵便車の左横を通過し、直進車の有無、状況の確認を怠り右折進行を続けたところ、折からの降雨によりぬれていた路面を横滑りするような状態で上告人車の右側ドア外側下部付近及び後部車輪を支えるバネ付近に接触、転倒し、脳挫傷等の傷害を負い、同日午後11時5分に死亡した。
最高裁の判断
道路交通法は、交差点で右折する車両等は、当該交差点において直進しようとする車両等の進行妨害をしてはならない旨を規定しており、車両の運転者は、他の車両の運転者も同規定の趣旨に従って行動するものと想定して自車を運転するのが通常であるから、右折しようとする車両が交差点内で停止している場合に、当該右折車の後続車の運転者が停止車両の側方から前方に出て右折進行を続けるという違法かつ危険な運転行為をすることなど車両の運転者にとって通常予想することができないところである。
上記事実関係によれば、上告人は、青色信号に従って交差点を直進しようとしたのであり、右折車である郵便車が交差点内に停止して上告人車の通過を待っていたというのであるから、上告人には、他に特別の事情のない限り、郵便車の後続車がその側方を通過して自車の進路前方に進入して来ることまでも予想して、そのような後続車の有無、動静に注意して交差点を進行すべき注意義務はなかったものといわなければならない。
本件においては、何ら右特別の事情の存在することをうかがわせるものはないのであるから、上告人には本件事故について過失はないものというべきである。