交通事故の際に任意保険会社が医療機関に対して行う一括支払の性質について判断した裁判例を紹介します。

大阪高裁平成元年5月12日判決

 交通事故の被害者が医療機関で治療を受ける際に,加害者側の任意保険会社が医療機関に治療費等を直接支払う一括支払の法律上の性質が問題になった判決です。

事案の概要

 本判決は,交通事故の被害者を治療した医師から任意保険会社に対して治療費を請求した事案です。

 控訴人である医師は,交通事故の被害者の治療費の支払いに関し任意保険会社と医療機関との間で行われている一括払いの取り扱いを挙げ,「一括払いの合意」により,医療機関は保険会社に対し実際に要した治療費全部を請求する権利を取得すると主張する。そして,本件の場合,交通事故の加害者(被保険者)と被害者の相続人との間で治療費を190万7342円とする訴訟上の和解が成立しているけれども,実際の治療費は216万5825円であるとし,また,控訴人と被害者の相続人との間で未払治療費は18万7342円と合意されているけれどもこれは控訴人と被控訴人との関係に影響を及ぼさないとして,実際の治療費であるという216万5825円から被控訴人が既に支払った120万円及び被害者の相続人が支払った36万円を控除した残額金60万5825円の支払いを求めた。

裁判所の判断

 任意保険会社は,その法的地位上,被保険者の損害をてん補すれば足るのであって,被保険者が負担する損害賠償債務の範囲を超えて支払いをなす必要はなく,また,被保険者に対する義務の履行として損害のてん補をすれば足るのであって,第三者に対して直接損害賠償義務を負担する理由はないといわねばならない。

 交通事故の被害者の治療費の支払に関し任意保険会社と医療機関との間で行われている「一括払い」なるものは,保険会社において,被害者の便宜のため,加害者の損害賠償債務の額の確定前に,加害者(被保険者),被害者,自賠責保険,医療機関等と連絡のうえ,いずれは支払いを免れないと認められる範囲の治療費を一括して立て替え払いしている事実を指すにすぎず,立て替え払いの際保険会社と医療機関との間に行われる協議は,単に立て替え払いを円滑にすすめるためのもので,保険会社に対し医療機関への被害者の治療費一般の支払い義務を課し,医療機関に対し保険会社への治療費の支払い請求権を付与する合意を含むものではないと解するのが相当である。