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自賠責保険の直接請求権と社会保険の求償権(交通事故の判例)


自賠責保険に、被害者の直接請求と社会保険からの求償が競合した場合の優先関係を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁平成20年2月19日判決

 交通事故の被害者の自賠責保険への直接請求と市町村の医療費用に係る療養給付に基づく自賠責保険への求償が競合した場合に、どちらが優先するのか?が問題になった事案です。

事案の概要

 A(当時76歳)は、平成15年8月23日、普通自動二輪車を運転して信号機により交通整理の行われている交差点を直進しようとして、同交差点を反対方向から右折中のB車と衝突し、外傷性くも膜下出血、脳ざ傷、顔面打撲ざ創等の傷害を負い、同日から平成16年1月29日までC病院等に入院した。

 Bは、上告人との間で、B車を被保険自動車とする自賠責保険の契約を締結していた。

 市長は、平成15年9月から平成16年1月まで、Aに対し、老人保健法(平成17年法律第77号による改正前のもの)25条1項に基づき前記傷害に関して医療を行った。上記医療に関し市が支払った価額は206万4,200円であり、市長は、同法41条1項により、本件医療価額の限度において、本件事故に係るAのBに対する損害賠償請求権及びAの上告人に対する自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払請求権を取得した。

 国民健康保険団体連合会は、市長から同市長が老人保健法41条1項により取得した請求権に係る損害賠償金の徴収等の事務の委託を受け、平成16年6月28日、上告人に対し、自賠法16条1項に基づき、自賠責保険金額の限度で本件医療価額の支払を求めた。他方、Aは、同月29日、上告人に対し、同項に基づき、自賠責保険金額の限度で、本件損害額のうち前記医療の給付を受けたことによってはてん補されない損害額の支払を求めた。本件未てん補損害額は、自賠責保険金額である120万円を超えている。

最高裁の判断

 最高裁は、被害者の自賠責保険への直接請求が優先すると判断しています。

 被害者が医療給付を受けてもなおてん補されない損害について直接請求権を行使する場合は、他方で、市町村長が老人保健法41条1項により取得した直接請求権を行使し、被害者の直接請求権の額と市町村長が取得した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときであっても、被害者は、市町村長に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険金額の限度で自賠法16条1項に基づき損害賠償額の支払を受けることができるものと解するのが相当である。

 自賠法16条1項は、同法3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときに、被害者は少なくとも自賠責保険金額の限度では確実に損害のてん補を受けられることにしてその保護を図るものであるから(同法1条参照)、被害者において、その未てん補損害の額が自賠責保険金額を超えるにもかかわらず、自賠責保険金額全額について支払を受けられないという結果が生ずることは、同法16条1項の趣旨に沿わないものというべきである。

 老人保健法41条1項は、第三者の行為によって生じた事由に対して医療給付が行われた場合には、市町村長はその医療に関して支払った価額等の限度において、医療給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得する旨定めているが、医療給付は社会保障の性格を有する公的給付であり、損害のてん補を目的として行われるものではない。同項が設けられたのは、医療給付によって医療受給者の損害の一部がてん補される結果となった場合に、医療受給者においててん補された損害の賠償を重ねて第三者に請求することを許すべきではないし、他方、損害賠償責任を負う第三者も、てん補された損害について賠償義務を免れる理由はないことによるものと解され、医療に関して支払われた価額等を市町村長が取得した損害賠償請求権によって賄うことが、同項の主たる目的であるとは解されない。したがって、市町村長が同項により取得した直接請求権を行使することによって、被害者の未てん補損害についての直接請求権の行使が妨げられる結果が生ずることは、同項の趣旨にも沿わないものというべきである。


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