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無保険車傷害保険と自賠責保険の損益相殺(交通事故の判例)


無保険車傷害保険に関する最高裁判決を紹介します。

最高裁平成24年4月27日判決

 無保険車傷害保険の支払いに関して、①自賠責保険の損益相殺と②遅延損害金の利率が問題になった事案です。

事案の概要

 上告人X1は、平成16年7月3日、普通乗用自動車を運転中、Aの運転する普通乗用自動車に衝突される事故に遭い、同上告人には、頚髄損傷による四肢麻痺の後遺障害が残った。

 上告人X2及び同X3は、上告人X1の両親であり、上告人X4は、上告人X1の子である。

 上告人X1は、本件事故当時、被上告人との間で、自動車保険契約を締結しており、上記保険契約に適用される普通保険約款には無保険車傷害条項が置かれているところ、上告人X1は上記条項に係る被保険者であり、Aの運転していた普通乗用自動車は上記条項にいう無保険自動車に当たる。

 上記条項は次の(1)及び(2)のようなものであり、また、本件約款には次の(3)のような定めがあった。

 (1) 被上告人は、無保険自動車の使用等に起因して、被保険者の身体が害され、その直接の結果として後遺障害が生じること等によって被保険者又はその父母、子等の被る損害に対して、賠償義務者がある場合に限り、保険金を支払う。

 (2)無保険車傷害保険金の額は、被害者等の被る損害の額から、①自動車損害賠償責任保険からの支払額、②賠償義務者以外の第三者が負担すべき金員で被害者等が既に取得したものの額等の合計額を差し引いた額とする。

 (3)被上告人は、被保険者又は保険金請求権者が保険金請求の手続をした日から30日以内に保険金を支払う。

 本件約款には、被上告人が被害者等の被る損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めはない。

 本件事故により上告人X1の被った損害の額は、無保険車傷害保険金の内払金311万8,612円を差し引くと、1億5,669万5,310円である。

 上告人X1は、平成19年4月10日、自動車損害賠償責任保険から4,000万円の支払を受け、また、平成17年8月15日から平成21年4月15日にかけて、国民年金法に基づく障害基礎年金合計467万1,772円の支給を受けた。

 本件事故により上告人X2及び同X3の被った損害の額は各205万円、上告人X4の被った損害の額は105万円であり、これらが同上告人らに支払われる無保険車傷害保険金の額となる。

 上告人らの代理人である弁護士は、平成18年2月18日、被上告人に対し、無保険車傷害保険金の支払を請求した。

原審の判断

 (1)①上告人X1に支払われる無保険車傷害保険金の額を算定するに当たっては、上記の損害の元本の額から、本件自賠責保険金の全額及び本件障害基礎年金のうち平成18年3月20日以前に支給された分の全額を差し引くのが相当である。

 ②本件障害基礎年金のうち平成18年3月21日以後に支給された分については、順次、上記アにより算定された無保険車傷害保険金のうち休業損害及び逸失利益を塡補する部分に対する各支給日までの遅延損害金の額、上記無保険車傷害保険金の元本の額から、この順に差し引くのが相当である。

 (2) 無保険車傷害保険金の支払請求は、実質において賠償義務者に対する損害賠償請求と同じであるから、無保険車傷害保険金の支払債務に係る遅延損害金の利率は、民法所定の年5分と解するのが相当である。

 ①上告人X1の請求を、無保険車傷害保険金の残元本1億1,583万6,731円のほか、無保険車傷害保険金の元本のうち休業損害及び逸失利益を塡補する部分に対する弁済期の翌日である平成18年3月21日から平成21年4月15日までの民法所定の年5分の割合による確定遅延損害金の未払額304万3,884円、上記部分の残元本である4,465万2,618円に対する平成21年4月16日から支払済みまでの上記割合による遅延損害金、無保険車傷害保険金の元本のうち上記部分以外の部分である7,118万4,113円に対する平成18年3月21日から支払済みまでの上記割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、②その余の上告人らの各請求を、無保険車傷害保険金(上告人X2及び同X3につき各205万円、同X4につき105万円)及びこれに対する平成18年3月21日から支払済みまでの上記割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容した。

最高裁の判断

自賠責保険との損益相殺

 本件約款によれば、無保険車傷害保険金は、被害者等の被る損害の元本を塡補するものであり、損害の元本に対する遅延損害金を塡補するものではないと解されるから、本件約款に基づき被害者等に支払われるべき無保険車傷害保険金の額は、被害者等の被る損害の元本の額から、被害者等に支払われた自賠責保険金等の全額を差し引くことにより算定すべきであり、自賠責保険金等のうち損害の元本に対する遅延損害金に充当された額を控除した残額を差し引くことにより算定すべきものとは解されない。このことは、自賠責保険金等が無保険車傷害保険金の弁済期後に支払われた場合であっても,異なるものではない。

適用される利率

 無保険車傷害保険金の支払債務は、商人である被上告人との間で締結された保険契約に基づくものであるから、商行為によって生じた債務(商法514条)に当たるというべきであって、無保険車傷害保険金の支払請求が賠償義務者に対する損害賠償請求に代わる性質を有するとしても、そのことは、上記支払債務に係る遅延損害金の利率を賠償義務者に対する損害賠償請求の場合と同様に解すべき理由にはならない。したがって、無保険車傷害保険金の支払債務に係る遅延損害金の利率は、商事法定利率である年6分と解すべきである。

結論

 上告人X1に支払われるべき無保険車傷害保険金の額は、上記の損害の元本の額から、本件自賠責保険金及び本件障害基礎年金の全額を差し引いた1億1,202万3,538円となり、上告人らの請求は、無保険車傷害保険金(上告人X1につき上記同額、上告人X2及び同X3につき各205万円、上告人X4につき105万円)及びこれに対する弁済期の翌日である平成18年3月21日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。


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