自賠責保険の遅延損害金の起算点を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁平成30年9月27日判決
自賠責保険の直接請求権と労災保険の求償権が競合した場合にどちらが優先するか?が問題になった判決です。
詳しくは、以下の「自賠責保険の直接請求権と労災保険の求償権の優劣に関する最高裁判決」を参照
自賠責保険の直接請求権と労災保険の求償権の優劣に関する最高裁判決(交通事故の判例)
交通事故の被害者による自賠責保険の直接請求権と労災保険の求償権が競合した場合の優劣を判断した最高裁判決を紹介します。
この判決は、自賠責保険の遅延損害金の起算点についても判断しています。
自賠法16条の9第1項の「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」を経過すれば、遅延損害金が発生することになります。この「必要な期間」の意義について、最高裁が判断しました。
原審の判断
原審は、原判決確定日の前日までの遅延損害金の支払請求を棄却しました。
被害者が直接請求権を訴訟上行使した場合、裁判所は自賠法16条の3第1項に規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じる判決を行う。保険会社は判決が確定するまで損害賠償額を確認することができない。この場合、自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは、保険会社が訴訟を遅滞させるなどの特段の事情がない限り、判決が確定するまでの期間をいうと解すべきである。
最高裁の判断
最高裁は、原審の判断を覆し、原審に差戻しました。
自賠法16条の9第1項は、被害者の直接請求権に基づく損害賠償額支払債務について、損害賠償額の支払請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間が経過するまでは遅滞に陥らない旨を規定する。この規定は、自賠責保険において、保険会社は損害賠償額の支払をすべき事由について必要な調査をしなければその支払をすることができないことに鑑み、民法412条3項の特則として、支払請求のあった後、所要の調査に必要な期間が経過するまでは、支払債務は遅滞に陥らないものとし、他方、その調査によって確認すべき対象を最小限にとどめ、迅速な支払の要請に配慮したものと解される。
自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは、保険会社において、被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する調査をするために必要とされる合理的な期間をいうと解すべきでる。その期間について、事故又は損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取得期間、損害賠償額についての争いの有無及びその内容、被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断するのが相当である。
したがって、保険会社が訴訟を遅滞させるなどの特段の事情がないからといって、直ちに保険会社の損害賠償額支払債務が原判決確定時まで遅滞に陥らないとすることはできない。