交通事故で前腕を強く打ったり、転倒して手をついたりすると、前腕を構成する橈骨・尺骨の骨幹部を骨折することがあります。
橈骨と尺骨は、単に腕を支えている2本の骨ではありません。この2本の骨が互いに位置を変えることで、手のひらを上に向けたり下に向けたりする「回内・回外」という動きが可能になります。
そのため、骨折自体は癒合しても、骨がずれて癒合すると、「手のひらを返しにくい」「ドアノブを回しにくい」といった前腕の回旋制限や、痛み、変形などが残ることがあります。
橈骨・尺骨骨幹部骨折の後遺障害で問題になるのは、主に、①骨癒合不全(偽関節)、②骨の変形、③前腕の回内・回外制限、④痛みなどの神経症状が問題になります。
残った障害の内容によって、7級・8級・準用10級・12級・14級などが認定される可能性があります。
このページでは、交通事故による橈骨・尺骨骨幹部骨折で残りやすい症状と、後遺障害として何級が認定される可能性があるのか、認定の際に確認しておきたいポイントを解説します。
- 1. 橈骨・尺骨骨幹部骨折とは?
- 1.1. 橈骨・尺骨骨幹部骨折の治療
- 2. 橈骨・尺骨骨幹部骨折で残りやすい症状
- 2.1. 前腕を回しにくい
- 2.2. 骨が十分に癒合しない
- 2.3. 前腕の変形
- 2.4. 骨折部の痛み
- 3. 橈骨・尺骨骨幹部骨折の後遺障害は何級になる?
- 3.1. 阻血性障害
- 3.2. 骨癒合不全(偽関節)が残った場合
- 3.2.1. 7級9号:偽関節により著しい運動障害を残すもの
- 3.2.2. 8級8号:1上肢に偽関節を残すもの
- 3.2.3. 12級8号:長管骨に変形を残すもの
- 3.3. 骨の変形が残った場合
- 3.4. 前腕を回す動きが制限された場合
- 3.4.1. 健側の1/4以下:準用10級
- 3.4.2. 健側の1/2以下:準用12級
- 3.5. 痛みなどが残った場合
- 4. 橈骨・尺骨骨幹部骨折の後遺障害認定のポイント
- 4.1. レントゲンやCTで骨癒合・変形の状態を確認する
- 4.2. 回内・回外の可動域を正確に測定するとともに原因を明らかにする
- 4.3. 痛みが残っている場合は症状の経過も重要
- 5. 橈骨・尺骨骨幹部骨折では「前腕を回せるか」が重要です
橈骨・尺骨骨幹部骨折とは?
手首と肘の間を前腕といいます。前腕は、橈骨と尺骨の2つの骨があります。橈骨と尺骨が動くことで、前腕をひねることができます。

橈骨・尺骨骨幹部骨折は、前腕の中央部分の骨折です。強い痛み・腫脹が現れます。橈骨・尺骨の両方が骨折すると、強く変形します。一方、どちらかのみの骨折の場合は、あまり変形しない場合もあります。
交通事故では、転倒し手をついた際に、強いねじれが加わった場合に発症することがあります。
橈骨・尺骨骨幹部骨折の治療
橈骨・尺骨それぞれの単独骨折の場合は、ギプスで固定します。6~8週間ほどで、骨癒合が得られることがあります。癒合不全になる場合もあります。
橈骨・尺骨骨幹部骨折で残りやすい症状
橈骨・尺骨骨幹部骨折では、以下のような症状が残ることがあります。
前腕を回しにくい
「手のひらを上に向ける」「下に向ける」という前腕の動きを、それぞれ回外・回内といいます。
橈骨・尺骨骨幹部骨折後に骨の位置関係が十分に回復しなかった場合、前腕の回内・回外が制限されることがあります。
日常生活では、
- ドアノブを回す
- 鍵を回す
- ペットボトルなどのふたを開ける
- 手のひらを上にして物を受取る
などといった動作で不自由を感じることがあります。
骨が十分に癒合しない
骨折部の骨癒合が進まず、骨片間に異常な動きが残る「癒合不全(偽関節)」となることがあります。
前腕の変形
骨折した橈骨・尺骨が元の形とは異なる状態で癒合すると、前腕に変形が残ることがあります。
骨折部の痛み
骨折部が癒合した後も、前腕に痛みが残ることがあります。
橈骨・尺骨骨幹部骨折の後遺障害は何級になる?
橈骨・尺骨骨幹部骨折の後遺障害は、橈骨・尺骨骨幹部骨折と診断されただけで、後遺障害等級が決まるわけではありません。
症状固定時に、骨癒合の状態、変形の程度、前腕の回内・回外の可動域、痛みなどがどの程度残っているかによって、認定される可能性のある等級が異なります。
| 残った症状・状態 | 想定される後遺障害等級 |
|---|---|
| 手関節が用廃し、手指の機能が全廃 | 6級 |
| 癒合不全で、硬性補装具が常に必要 | 7級9号 |
| 癒合不全で、硬性補装具が時々必要 | 8級8号 |
| 長管骨に変形を残す | 12級8号 |
| 回内+回外の可動域が健側の4分の1以下 | 準用10級 |
| 回内+回外の可動域が健側の2分の1以下 | 準用12級 |
| 医学的に証明できる骨折部の痛み | 12級13号 |
| 医学的に説明できる骨折部の痛み | 14級9号 |
阻血性障害
橈骨・尺骨骨幹部骨折による強い腫れや圧迫により筋肉・神経がダメージを受ける阻血性障害という合併症を発症することがあります。この場合、阻血性拘縮による手関節の用廃、手指の用廃として、後遺障害等級6級(併合又は準用)の可能性があります。
骨癒合不全(偽関節)が残った場合
7級9号:偽関節により著しい運動障害を残すもの
橈骨・尺骨の両方の骨幹部に癒合不全が残り、常に硬性補装具を必要とする場合は、後遺障害等級7級9号の可能性があります。
8級8号:1上肢に偽関節を残すもの
橈骨・尺骨の両方の骨幹部に癒合不全が残っている場合は、後遺障害等級8級8号の可能性があります。
また、橈骨又は尺骨のいずれか一方に癒合不全が残り、時々硬性補装具を必要とする場合も後遺障害等級8級8号の可能性があります。
12級8号:長管骨に変形を残すもの
橈骨又は尺骨のいずれか一方の骨幹部に癒合不全が残っていても、硬性補装具を必要としない場合は、後遺障害等級12級8号の可能性があります。
骨の変形が残った場合
橈骨と尺骨の両方が変形した状態で癒合し、その変形が外から見ても分かる程度の場合は、「長管骨に変形を残すもの」として後遺障害等級12級8号の可能性があります。
原則として、15度以上屈曲して不正癒合していることが一つの基準になります。
橈骨又は尺骨のどちらか一方だけの変形でも、その程度が著しい場合は、後遺障害等級12級8号の可能性があります。
前腕を回す動きが制限された場合
橈骨・尺骨骨幹部骨折では、肘や手首そのものの曲げ伸ばしだけではなく、「手のひらを上・下に向ける」回内・回外の動きが制限されることがあります。
健側の1/4以下:準用10級
前腕の回内・回外の可動域が、健康な側の4分の1以下に制限されている場合は、後遺障害等級準用10級の可能性があります。
健側の1/2以下:準用12級
前腕の回内・回外の可動域が、健康な側の2分の1以下に制限されている場合は、後遺障害等級準用12級の可能性があります。

前腕の回内と回外の可動域制限は、両者を合計した可動域角度で評価します。
痛みなどが残った場合
骨折部に痛みなどの神経症状が残った場合は、その症状を医学的に証明できるかどうかなどによって、12級13号又は14級9号が問題になることがあります。
ただし、骨折部の変形や癒合不全と、それに伴う痛みが残っている場合には、それぞれを別々の後遺障害として評価するのではなく、原則として上位の等級によって評価されます。
橈骨・尺骨骨幹部骨折の後遺障害認定のポイント
交通事故による橈骨・尺骨骨幹部骨折で、後遺障害の認定を受けるには、以下のようなポイントを押さえておくことが重要です。
レントゲンやCTで骨癒合・変形の状態を確認する
橈骨・尺骨骨幹部骨折と診断されただけでは、後遺障害は認定されません。
骨がくっついていない状態や、変形して固まった状態を、レントゲンやCT画像などで確認できることが必要になります。
前腕を回しにくい症状が残っている場合は、3次元CTなどで骨の回旋ズレを明らかにする必要があります。
回内・回外の可動域を正確に測定するとともに原因を明らかにする
前腕を回しにくい症状が残っている場合、回内と回外の可動域角度を正確に測定してもらう必要があります。
さらに、回内・回外の可動域制限が生じている原因を明らかにする必要があります。骨の変形、周囲の軟部組織との癒着、インプラントの影響など、その原因を診断書や主治医の意見書等で証明します。
痛みが残っている場合は症状の経過も重要
骨折部の痛みが残る場合は、レントゲンやMRIなどで神経圧迫や癒合状態を明らかにします。画像所見で有意な所見がないことも想定されます。そのため、交通事故直後から一貫して症状を訴え、治療記録や経過を診断書やカルテに記載しておいてもらうことが重要です。
橈骨・尺骨骨幹部骨折では「前腕を回せるか」が重要です
橈骨・尺骨骨幹部骨折では、骨折が癒合したからといって、必ずしも元どおりの機能が回復するとは限りません。
橈骨と尺骨は、2本が組み合わさって前腕を回転させています。そのため、骨の変形や癒合不全によって、「手のひらを上に向けられない」「腕をひねりにくい」といった回内・回外制限が残ることがあります。
後遺障害としては、阻血性障害の合併症を発症した場合は6級、骨癒合不全の程度によって7級9号・8級8号・12級8号、前腕の回内・回外制限によって準用10級・準用12級、痛みが残った場合には12級13号・14級9号などが問題になります。
後遺障害等級は傷病名だけで決まるものではありません。症状固定時の画像所見、骨癒合の状態、変形の程度、回内・回外の可動域、残っている症状などを確認したうえで検討する必要があります。

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