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機能障害における可動域角度測定値の信用性を否定した裁判例(交通事故の裁判例)


機能障害における可動域角度測定値の信用性を否定した裁判例を紹介します。

大阪地裁平成28年2月26日判決

 上肢・下肢の機能障害は、可動域角度によって、後遺障害等級が異なります(関節の機能障害参照)。後遺障害の認定に当たって、当初、診断書に記載されていた可動域角度の測定値を修正することがあります。本判決は、修正された可動域角度の測定値の信用性を否定した事案です。

事案の概要

 平成24年2月10日午後0時03分頃、本件交差点の南側を東から西に向かって歩行横断していた原告と、東西道路を東進し、本件交差点を右折しようとした被告車両が衝突した。

 原告は、本件事故後、a病院に救急搬送により入院し、右脛骨及び右腓骨の徒手整復術を受けた。原告は平成24年2月13日、同病院を退院し、b病院に転院した。原告は、平成24年2月13日、b病院に転入院し、同月15日、同病院の担当医であるC医師による、右脛骨天蓋をACEスクリューで関節面固定し、全体をシンセスDTJというジョイントで固定する骨折観血的整復固定術を受けた。
 同月29日に右足関節の固定が外され、D理学療法士により可動域訓練のリハビリが開始された。

 原告は、平成24年3月7日、リハビリ目的でc病院に転入院した。同年4月16日時点では右足関節の底屈には若干可動域制限があるが、背屈の他動可動域に左右差はなかった。同月26日に同病院を退院する時点において、原告は松葉杖を用いて安定して歩行できるようになり、右足への荷重も80%程度できるようになっていた。

 原告は、平成24年4月27日からb病院に通院し、右足関節可動域のリハビリ等の治療を受けた。原告は、平成25年2月12日から同年18日まで同病院に入院し、右足関節に対する抜釘術を受けた。

 b病院のC医師は、平成25年5月28日、原告には、右脛骨遠位端骨折及び右腓骨遠位端骨折の結果、右足関節に関節面不整が残るなどしたことから、右足関節の可動域制限及び歩行中等における右足関節痛の症状がある状態で同日症状固定したと診断した。同日、C医師は、測定器具を用いて原告の足関節の可動域を測定した。健側である左足関節の可動域は、自動他動ともに背屈が15度、底屈が70度であった。右足関節は、自動他動ともに、背屈が5度、底屈が30度であった。

 原告は、同年6月8日に原告訴訟代理人弁護士が代表を務める法律事務所の法律相談会を訪れ、本件事故に関する法律相談を行った。原告は、同月11日、b病院を訪れ、右足関節の可動域について再測定を求めた。同病院のC医師は、再測定を行い、その結果、後遺障害診断書の右足関節の底屈可動域について、自動他動ともに20度に訂正した。

 原告は、訂正された後遺障害診断書を基に、被告の自賠責保険会社であるd保険株式会社に対し、被害者請求を行った。損害保険料率算出機構は、原告の後遺障害について、右足関節の機能障害は右脛骨遠位端骨折及び右腓骨遠位端骨折後の変形癒合及び拘縮によるとした上で、後遺障害診断書上、その可動域が健側の2分の1以下に制限されていることを根拠に、「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」として10級11号に該当すると判断した。

裁判所の判断

 裁判所は,以下のとおり,後遺障害診断時の右足関節可動域の測定値の信用性を否定しました。

 治療経過によれば,原告の右足関節可動域は,平成25年1月29日までに,背屈が10度ないし15度程度,底屈が40度ないし50度(合計可動域は50度ないし65度)程度で推移していたものと認められる。これに対し,後遺障害診断時の右足関節可動域の測定値は背屈が5度,底屈(訂正後)が20度と極端に悪化した数値となっている。以上に加え,後遺障害診断から日を置かず原告が賠償のための法律相談に赴き,同相談後すぐに右足関節可動域の再測定が行われたことなどの事情も踏まえれば,同再測定が弁護士の指導によるものとは認められないにしても,後遺障害診断時の右足関節可動域の測定値は直ちに信用することはできず,本件事故と相当因果関係のある原告右足関節の可動域制限としては悪くても背屈10度,底屈40度(合計50度)程度というべきである。他方,健側の可動域は後遺障害診断書上,背屈15度,底屈70度(合計85度)とされているところ,後遺障害診断以前の治療経過を考慮しても,参考可動域よりも可動域が大きいことが直ちに不自然とまではいえない。そうすると,原告の右足関節の可動域は健側の2分の1以上4分の3以下に制限されているということができる。以上によれば,本件事故により原告に生じた右足関節の可動域制限は12級7号相当というべきである。

 原告は,治療経過中における可動域測定値は目測であることなどから信用できないと主張する。しかし,C医師の測定値とD理学療法士の測定値は少々の相違はあるものの,目測による誤差として理解可能な範囲の相違にとどまっている。C医師は,測定値は前回のものをコピーしたものだと説明するが,例えば平成24年5月22日と同年6月19日とでは数値が異なっているのであり,変化があった場合にはその変化を記載していることが明らかである。D理学療法士についても,日によって測定値が異なっていることからすれば,その都度可動域を測定していたものと認められ,角度計を用いた測定であった可能性もある。なお,治療経過中の測定と後遺障害診断の間には抜釘手術の実施があり,C医師は同手術による可動域悪化の可能性を指摘するが,原告自身としては可動域がその前後で変化したということはないというのであり,同手術が可動域の悪化につながったともいえない。


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