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労災と自賠責で後遺障害等級認定が異なった裁判例(交通事故の裁判例)


労災と自賠責で後遺障害等級認定の結果が異なった裁判例を紹介します。

大阪地裁平成28年7月28日判決

 本件は、労災保険と自賠責保険で後遺障害等級認定の結果が異なった事案です。

 労災では後遺障害等級は脊髄損傷として9級と認定されました。一方、自賠責保険は局部の神経症状として14級と認定しました。裁判所は、局部の神経症状として14級と認定しました。

 交通事故では、労災と自賠責保険とで、後遺障害等級認定の結果が異なることが珍しくありません。

事案の概要

 平成23年5月13日午前0時5分頃、原告車が、左側にガードレールのないb川沿いの1車線道路を走行中、前方からトラックが進行してきたため、道路左側を走行したところ、原告車が脱輪して左側の河川敷の方にはみ出した。

 本件事故直後、原告がc病院を受診したところ、右側頭部打撲、右前胸部から左骨盤部にかけての腫脹、左大腿部・右膝に疼痛、右前腕にしびれ、小指に力が入らない、後頸部痛、腰背部の強い痛み等といった症状の訴えがあったが、レントゲンやCT上は明らかな骨折は認められなかった。同病院整形外科の医師は、「頭部打撲、右膝関節捻挫、下腿打撲傷、腹部打撲傷、頸椎胸椎捻挫、右上腕打撲傷、右小指打撲傷、右肩打撲傷」と診断する一方で、両上肢のしびれは頸椎に由来する症状の可能性が高いと判断し、ネックカラー装着の上での安静及び翌日の受診を指示して、帰宅を許可した。同月14日にc病院を受診した際、原告には、右小指のしびれ・痛みのほか、左臀部痛の症状があった。レントゲン上、C6/7に元々あった狭小化の所見が認められたものの、骨折や脱臼等といった他の異常所見は認められなかった。また、右小指の骨折も認められず、同病院整形外科の医師は、中心性頸髄損傷疑いと判断し、投薬・安静の上で1週間後の再診を指示した。
 同月16日の受診時における原告の症状は、左下肢後面にしびれ感がある、歩行は可能だが跛行がある、左上肢がピリピリしているといったもので、手指の運動には特に問題はなかった。レントゲン上、頸椎に明らかな骨折はなく、脊柱管前後径は16ミリメートル前後で、特に問題はないと判断され、引き続き保存療法が行われることとなった。
 同月17日の受診時には、痛みで眠れない、歩行は楽になった、左下肢のしびれがあるとの訴えがあった。手指運動は改善傾向が見られた。
 同月20日の受診時には、本件事故時より腰痛、左臀部にピリピリ感がある、咳で疼痛があるとの訴えがあった。同日の診療録には、「側弯(+)、L3/4棘突起触知(+)、脊椎殴打痛(–)、脊椎圧痛(–)、体動やや困難、SLR(下肢伸展拳上テスト)右70度左70度、FNS(大腿神経伸展テスト)右+左–」と記載されている。
 同月23日の受診時には、頸椎下部から肩甲骨部に疼痛がある、両手指のしびれ感が強くなって不眠であるとの訴えがあった。両上肢の自動運動は良好であった。
 同年6月2日の受診時には、両後頸部痛は軽減したが残存している、四肢のしびれ感が残存している、右上肢(橈側)・右上肢(尺側)・左下肢(後面)にしびれ感があるとの訴えがあった。同日の診療録には、「MRI:明らかな脊髄損傷なし。Cord(脊髄)周囲のflow spaceは保たれている。C6/7椎間板周囲の椎体にT2high(高信号)あり→OA(変形性頸椎症)に伴うModic変化と考える」と記載されている。両手指の自動運動は良好であった。c病院の医師は、頸椎カラーを徐々に除去する旨を指示した。
 同月30日、神経学的検査が行われた。頸椎殴打痛・頸椎圧痛はなく、スパーリングテストは右-左-、ジャクソンテストは右±左+、反射(上腕二頭筋)C5は右+左+、反射(腕橈骨筋)C6は右+左+、反射(上腕三頭筋)C7は右+左+、ホフマン反射は右–左–、握力は右15キログラム左16キログラム、10秒テストは右13回左13回、フィンガーエスケープサインは右±左–であった。c病院整形外科の医師は、原告に対し、脊髄損傷ではなく頸椎捻挫であり、受傷後3ヶ月で治療終了の予定であると説明するとともに、仕事を制限する必要はなく、会社と相談して仕事に徐々に復帰するよう指示した。
 同年7月14日、c病院整形外科の医師は、内服剤の投薬治療は継続しつつも、原告の仕事復帰を許可した。
 その後も原告は両上肢のしびれ感と疼痛、右下肢のしびれ感等の自覚症状を訴え、c病院に通院を継続した。
 平成24年3月2日、c病院で撮影されたレントゲン上、原告の脊柱管前後径は15.4ミリメートルであった。
 同年8月31日、c病院整形外科の医師は、中心性頸髄損傷の傷病名で同日に症状固定したと診断した。症状固定時における握力は右7.4キログラム左5.7キログラムであった。

 e労働局労災協力医のC医師は、平成23年5月30日撮影の頸椎MRI上、C4/5、C5/6、C6/7に狭窄が見られるほか、理学所見として、C5付近に圧痛、殴打痛の反応があること、手指巧緻運動障害があること、遷延性排尿があること、ロンベルグテストの検査結果+であることなどから、中心性頸髄損傷であるとの意見を述べている。
 そして、C医師の上記意見を踏まえ、労災保険では、原告の脊髄の障害につき、画像上の明らかな中心性頸髄損傷の所見は認められないものの、残存する障害の状態は脊髄損傷に伴うものと判断して差し支えないとした上で、中心性頸髄損傷に伴う神経症状として、「通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、労務可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの(第9級の7の2)」に該当すると判断した。

 損害保険料率算出機構は、両上肢のしびれ感と疼痛、右下肢のしびれ感等の症状について、後遺障害診断書上は傷病名として中心性頸髄損傷とされているが、上記後遺障害診断書上、「XP:明らかな骨折なし、MRI:明らかな頸髄損傷の所見なし」と所見されているとおり、提出の頸部画像上、脊髄の髄内輝度変化等の異常所見は認められず、頸髄損傷に起因する障害として評価は困難であり、その他治療状況等も勘案した結果、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉えられず、自賠責保険における後遺障害には該当しないものと判断した。

 原告は、新たにc病院発行の診療録、厚生労働事務官作成に係る障害認定調査復命書、c病院作成に係る脳脊髄又は脊髄損傷による傷害の状態に関する意見書、C医師作成の意見書、f労働基準監督署作成に係る認定時面接聴取書及び障害認定面接調査書等を提出して、異議申立てをした。
 これに対し、損害保険料率算出機構は、以下のとおりの理由で、原告の症状は自賠法施行令別表第二第14級9号に該当すると判断した。
 「両上肢のしびれ感と疼痛、右下肢のしびれ感との症状について、提出の頸部画像からも外傷性の異常所見はうかがえず、中心性頸髄損傷を客観的に裏付ける脊髄の明らかな輝度変化や、上記症状と整合する脊髄への圧迫所見も認められない。
 また、c病院作成の「神経学的所見の推移について」(平成24年11月9日)によれば、終診時(平成24年11月9日)において、両上肢に知覚過敏が認められているものの、腱反射:「正常」、病的反射(ホフマン):「右–左–」、筋萎縮:「無」とされており、脊髄損傷を裏付ける神経学的所見に乏しく、さらに上記診療録上、平成23年6月30日の医師記録として、「脊髄損傷ではないと説明(頸椎捻挫である)」と記載されていることも踏まえるならば、本件事故により脊髄損傷を来したものと捉えることは困難である。
 したがって、上記症状のうち、両上肢のしびれ感と疼痛については、頸椎捻挫後の症状と捉えられるが、上記画像所見や神経学的所見を勘案すると、他覚的に神経系統の障害が証明されるものとしての評価は困難であるものの、c病院の診療録上、受傷後早期から両上肢のしびれ感が認められ、その後も継続している症状経過等を勘案すれば、将来においても回復が困難と見込まれる身体的なき損状態と捉えられることから、「局部に神経症状を残すもの」として別表第二第14級9号に該当するものと判断する。
 一方、右下肢のしびれ感との症状については、上記画像所見のとおり、中心性頸髄損傷を客観的に裏付ける所見は認められず、上記「神経学的所見の推移について」上、終診時(平成24年11月9日)の所見として、腱反射:「正常」、筋萎縮:「無」とされ、下肢に関わる病的反射や知覚障害に異常所見は認められていないことから、上記症状については他覚的に神経系統の障害が証明されるものとの評価は困難であり、上記診療録上、右下肢の症状に関する記載が乏しいことも踏まえれば、本件事故との相当因果関係を有し、かつ、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難く、前回回答のとおり、自賠責保険における後遺障害には該当しないものと判断する。」

裁判所の判断

 非骨傷性頸髄損傷や頸椎症性脊髄症が発症する重要な因子として頸椎の発育性脊柱管狭窄が挙げられているところ、男性の場合には単純X線側面像で脊柱管前後径が14ミリメートル以下であると発育性脊柱管狭窄と定義され、脊髄への圧迫の可能性が高まり、脊髄症を発症しやすいとされている。これを前提にすると、原告の場合には、平成24年3月2日撮影のレントゲン上、脊柱管前後径は15.4ミリメートルであって、正常例とされる範囲に入っており、通常人に比べて狭小とはいえない。
 この点につき、C医師は、意見書の中で、平成24年3月1日撮影のMRI画像で脊柱管の前後径を計測すると、C3/4で11.6ミリメートル、C4/5で9.5ミリメートル、C5/6で10.4ミリメートル、C6/7で9.7ミリメートルで、いずれも14ミリメートルを下回っている旨の意見を述べている。しかし、上記の14ミリメートル以下という基準は単純X線側面像を用いた時の値である。また、MRI画像では骨皮質と靱帯が明確に区別できず骨皮質部分が大きめに評価される一方、単純X線では実際の大きさよりも約10%拡大されるから、MRI画像での計測値は単純X線よりも約20%小さな数値となる。さらに、原告と同年代の男性の硬膜管前後径をMRIで椎間高位と椎体高位でそれぞれ測定した平均数値や、硬膜内脊髄占有率の数値に照らしても、発育性脊柱管狭窄はないと判断される。原告の場合、C6/7の狭小化は加齢に伴う変性所見の可能性が高いと考えられるのであって、原告には中心性頸髄損傷の発症因子となるような脊柱管狭窄が存していたとは認められない。

 頸部の画像上、外傷性の異常所見はうかがわれず、中心性頸髄損傷を客観的に裏付ける脊髄の明らかな輝度変化や、中心性頸髄損傷特有の症状と整合する脊髄への圧迫所見も認められないことは、損害保険料率算出機構が判断したとおりである。c病院で行われた各種神経学的検査は上記認定のとおりであって、脊髄損傷を裏付ける所見に乏しいといえる。
 また、上記で認定した原告の症状の推移を見ると、受傷直後から時間が経過するにつれて症状が改善しているとは評価し難く、外傷性による脊髄損傷であることと整合性を有しない推移をたどっている。

 さらに、原告が主張するような態様で本件事故が発生したとの点については相当疑問があるところであって、少なくとも本件事故の際に、頸髄損傷が生じるほどの過大な外力が原告の頸椎に作用したとは考えられない。

 原告に遷延性排尿等をはじめ、中心性頸髄損傷の場合に一般的に生じるとされる症状が見られる点を考慮に入れても、原告が本件事故によって中心性頸髄損傷を受傷したとは認められない。
 原告については、異議申立後の損害保険料率算出機構の判断のとおり、両上肢のしびれ感及び疼痛につき、「局部に神経症状を残すもの」として第14級9号に該当する後遺障害が残存したものと判断するのが相当である。


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