年少女子の逸失利益の算定を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁昭和62年1月19日判決
年少女子の逸失利益の算定に当たって、男女間の賃金格差を解消するために、女子の平均賃金に家事労働分を加算できるか?が問題になった事案です。
年少女子を含む子どもの逸失利益については、以下の「幼児・生徒・学生の逸失利益(死亡事故の逸失利益)」を参照
最高裁の判断
最高裁は、以下のように、家事労働分を加算することを否定しました。
Xのような死亡時に現実収入のない就労前の年少女子の場合には、当該女子の将来の就労の時期、内容、程度及び結婚後の職業継続の有無等将来につき不確定な要因が多いのであるが、原審が、Xの将来の得べかりし利益の喪失による損害賠償額を算定するに当たり、賃金センサス昭和56年第1巻第1表中の女子労働者、旧中・新高卒、企業規模計(パートタイム労働者を除いたもの)の表による平均給与額を基準として収入額を算定したことは、交通事故により死亡した女子の将来の得べかりし利益の算定として不合理なものとはいえず、Xが専業として職業に就いて受けるべき給与額を基準として将来の得べかりし利益を算定するときには、Xが将来労働によって取得しうる利益は上記の算定によって評価し尽くされることになると解するのが相当である。
したがって、これに家事労働分を加算することは、将来労働によって取得しうる利益を二重に評価計算することに帰するから相当ではない。そして、賃金センサスに示されている男女間の平均賃金の格差は現実の労働市場における実態を反映していると解されるところ、女子の将来の得べかりし利益を算定するに当たって、予測困難な格差の解消ないし縮少という事態が確実に生じるものとして現時点において損害賠償額に反映させ、これを不法行為者に負担させることは、損害賠償額の算定方法として必ずしも合理的なものであるとはいえない。
したがって、Xの得べかりし利益を算定するにつき、Xの受けるべき給与額に更に家事労働分を加算すべきではないとした原審の認定判断は、正当として是認することができる。