交通事故で被害者が亡くなった場合、内縁の配偶者は損害賠償請求できますか?
死亡による逸失利益
交通事故の死亡事故の損害には、いくつか損害費目があります。死亡による逸失利益は、慰謝料と並んで金額の大きい損害費目になります。
通常は、交通事故で亡くなった被害者自身に死亡による逸失利益が発生し、相続人がそれを相続し、加害者に対して損害賠償請求を行うことになります(死亡事故の請求権者も参照)。
扶養利益の侵害
相続人が被害者本人の損害賠償請求権を相続し行使すると、相続人ではない内縁の配偶者は、加害者に対して損害賠償請求権を行使できないことになります。
しかし、内縁の配偶者や相続放棄をした人など、相続人ではない人も、被害者によって扶養を受けていた場合、扶養利益の賠償を請求することができます。
最高裁平成5年4月6日判決
政府保証事業に関する判決ですが、最高裁は次のように判示し、扶養利益の賠償を認めています。
「内縁の配偶者が他方配偶者の扶養を受けている場合において、その他方配偶者が保有者の自動車の運行によって死亡したときは、内縁の配偶者は、自己が他方の配偶者から受けることができた将来の扶養利益の喪失を損害として、保有者に対してその賠償を請求することができる」。
扶養利益の賠償額
扶養利益の賠償額は、相続によって取得する被害者の逸失利益の額と当然に同じ額になるわけではありません。被害者の生前の年収や被扶養者の生計の維持に充てられていた部分等の具体的な事情に応じて算定されます。
最高裁平成12年9月7日判決
この判決で、最高裁は、次のように判示しています。
(1)不法行為によって死亡した者の配偶者や子が被害者から扶養を受けていた場合、加害者は配偶者等の固有の利益である扶養請求権を侵害した。配偶者等は相続放棄をしたときであっても、加害者に対し、扶養利益の喪失による損害賠償を請求することができる。
(2)扶養利益の喪失による損害額は、相続により取得すべき逸失利益の額を当然に同じ額になるわけではない。扶養者の生前の年収、被扶養者の生計維持に充てるべき部分、被扶養者ごとの扶養利益として認められるべき比率割合、扶養を要する状態が存続する期間などの具体的事情に応じて適正に算定すべきである。
扶養利益と相続人の逸失利益との関係
内縁の配偶者が扶養利益の喪失による損害賠償を請求する場合、相続人が相続した死亡による逸失利益との関係が問題になります。被害者の逸失利益のうち、扶養利益部分が内縁の配偶者に帰属し、残りの部分が相続人に帰属すると考えられます。そして、扶養利益の賠償が優先すると考えられます。
内縁の配偶者と相続人が同時に損害賠償請求をした場合は、特に問題になることはありません。相続人が先に賠償請求を行った場合に、①加害者は扶養利益部分を支払わないと主張できるか?②相続人に扶養利益部分も含めて支払った場合の弁済の効力はどうなる?といった問題が生じます。