死亡による逸失利益の算定において,将来の昇給を考慮することができるかどうかについて判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁昭和43年8月27日判決

 高校卒業し電機メーカーの系列会社に就職した22歳の男性被害者の死亡による逸失利益の算定において,将来の昇給を考慮することがでいるかどうかが問題となった事案です。

最高裁の判断

 まず,最高裁は死亡による逸失利益の算定について,一般論として次のように述べています。

 不法行為によつて死亡した者の得べかりし利益を喪失したことによる損害の額を認定するにあたつては,裁判所は,あらゆる証拠資料を総合し,経験則を活用して,でき得るかぎり蓋然性のある額を算出するよう努めるべきであり,蓋然性に疑いがある場合には被害者側にとつて控え目な算定方法を採用すべきである。ことがらの性質上将来取得すべき収益の額を完全な正確さをもつて定めることは不可能であり,そうかといつて,そのために損害の証明が不可能なものとして軽々に損害賠償請求を排斥し去るべきできないのであるから,客観的に相当程度の蓋然性をもつて予測される収益の額を算出することができる場合には,その限度で損害の発生を認めなければならないものというべきである。

 そして,死亡当時安定した収入を得ていた被害者において,生存していたならば将来昇給等による収入の増加を得たであろうことが,証拠に基づいて相当の確かさをもつて推定できる場合には,昇給等の回数,金額等を予測し得る範囲で控え目に見積つて,これを基礎として将来の得べかりし収入額を算出することも許されるものと解すべきである。

 その上で,最高裁は,本件における死亡による逸失利益の算定について,次のように判断しています。

 基本給については,会社に勤務する被害者と同程度の学歴,能力を有する者について昭和29年度から同32年度まで4年間の毎年の現実の昇給率を認定し,被害者が死亡の前月に受けた基本給の額3080円を基準として,右各年度において右と同一の率をもつて逐次昇給し得たものとして同人のその間の得べかりし基本給の額を算定し,昭和33年度以後同人が満44才に達する同50年度までは右4年間の昇給率の平均値である7.775パーセントの割合をもつて毎年昇給を続けるものとしてその間の基本給の額を算出し,さらにそれ以後満55才に達するまではこれを下廻る毎年5パーセントの昇給率をもつて昇給するものとしているのであつて,被害者が生存していた場合にこのようにして昇給することは,確実であるとはいえないにしても,相当程度の蓋然性があるものと認められないことはなく,このような平均的な昇給率によつて予測された昇給をしんしやくして将来の収入を定めことは,なお控え目な算定方法にとどまるものとして是認することできる。