加重障害とは、どのような後遺障害ですか?また、加重障害と認定された場合、逸失利益の算定はどのように行いますか?
加重障害とは?
加重障害とは、すでに後遺障害がある被害者が、交通事故によって、同じ部位について後遺障害の程度が重くなった場合の後遺障害のことをいいます。
自賠責保険は、「既に後遺障害のある者が傷害を受けたことによって同一部位について後遺障害の程度を加重した場合」と定義しています。
自賠責保険の定義からわかるように、既存の後遺障害は、交通事故によって生じたものに限りません。先天的な障害、交通事故以外で生じた障害であっても加重障害の対象になります。
同一部位とは、後遺障害の系列が同一であることを意味します。つまり、まったく同一部位の場合だけが、加重障害になるというわけではありません。また、欠損または機能の全部喪失は、その部位の最上位の等級に該当します。すでに後遺障害があった部位に、新たに欠損または機能の全部喪失が加わった場合は、系列が異なっても加重障害として扱われます。
加重障害の逸失利益の算定の問題
加重障害による逸失利益の算定は、すでに後遺障害によって低下した被害者の労働能力を前提に算定することになると考えられます。①労働能力喪失率と②基礎収入を具体的にどのように算定するのか?が問題になります。
①労働能力喪失率の算定
加重障害の場合の労働能力喪失率の具体的な算定方法としては、次の3つが考えられます。
⑴は、既存障害が11級で、加重障害(現在の後遺障害)が8級の場合、45%から20%を控除した25%を労働能力喪失率とするという考え方です。
②基礎収入の算定
加重障害の逸失利益の算定に当たって、基礎収入をどのように算定するのか?も、次の3つの考え方があります。
加重障害による逸失利益の算定方法
以上を前提に、加重障害による逸失利益の具体的な算定方法としては、次の3つの算定方法が考えられます。ただ、現在も議論のあるところです。
(1)今回の交通事故によって新たに生じた労働能力喪失率を認定し、事故直前の実収入を基礎収入として算定
(1)の考え方は基礎収入において既存障害を考慮し、今回の交通事故による独自の労働能力喪失率を認定するので、通常の後遺障害による逸失利益の算定と同じ考え方で算定しているということができます。
家事従事者の場合は、賃金センサスの平均賃金から既存障害を理由に相当額を減額する必要があります。既存障害の影響がどの程度なのか?を認定する必要があります。
この考え方は、実態に即した算定が可能になります。しかし、今回の事故による独自の労働能力喪失率をどのように認定するのか?という問題があります。
(2)加重後の後遺障害による逸失利益から既存障害による逸失利益を控除する
(2)の考え方は,自賠責保険の考え方と同じ考えによるものと考えられます。ただし,基礎収入において既存障害を考慮しているという問題があります。
(3)加重後の後遺障害による逸失利益を既存障害を考慮せずに算定し,そこから既存障害を理由に寄与度減額する
既存障害の程度や今回の事故による独自の労働能力喪失率を認定できないような場合であっても,逸失利益を算定することができるのが,⑶の考え方です。しかし,基礎収入の認定と寄与度減額の場面で,既存障害を二重に評価しているのではないか?という問題を指摘することができます。