交通事故の損害額の減額事由の一つである素因減額を取り上げます。
素因減額とは?
交通事故の損害の中には、加害行為である交通事故と共に、被害者の素因が寄与したり、競合することで、損害が発生・拡大することがあります。
このような場合に、加害者に損害のすべての賠償責任を負わせるのか?加害行為が損害の発生・拡大に影響した度合いに応じて賠償責任を負わせるのか?という問題が素因減額です。
素因減額についての判例の立場
学説は、①素因原則考慮説と②素因原則不考慮説に分かれています。判例は、原則として素因減額を行っていて、①の素因原則考慮説に立っていると考えれます。
判例は素因の競合について、①心因的要因、②疾患、③身体的特徴を挙げています。
①の心因的要因と②の疾患については、原則として割合的認定を行っています。③の身体的特徴については、原則として割合的認定を行わないというのが判例の立場です。
素因減額の立証責任
素因減額を過失相殺(民法722条2項)の類推適用と捉えると、素因減額は抗弁に位置付けられます。
過失相殺は、損賠賠償義務者から過失相殺の主張がなくても、裁判所は訴訟に現れた証拠に基づき被害者に過失があると判断した場合は、損賠賠償額の決定に際して職権で考慮することができるとされています。
素因減額についても過失相殺と同様に、損賠賠償義務者からの主張がなくても、裁判所は職権で考慮できるとされています。
ただし、損賠賠償義務者は、素因減額の主張まではする必要はないが、素因に当たる具体的事実については、主張・立証しなければならないと解されています。
素因減額と過失相殺の先後
素因減額と過失相殺の両方を行わなければならない場合、①順次減額方式と②加算減額方式が考えれます。
①順次減額方式は、まず、素因減額を行い残額に対して過失相殺を行います。②加算減額方式は、素因減額による減責率と過失相殺率を加算して、損害額から控除する方法です。
原審の判断を是認した最高裁平成4年6月25日判決の原審は、①順次減額方式を採用しています。