被害者に過失がある場合、裁判所は被害者の過失を考慮して、損害賠償の額を定めることができます(過失相殺参照)。
最高裁昭和39年6月24日大法廷判決
過失相殺は、被害者の過失を斟酌して損害賠償の額を減額する制度です。被害者が幼児などの責任能力を欠く場合、被害者の過失を理由に損害賠償の額を減額することはできないのではないか?という問題があります。
事案の概要
交通事故当時、8歳の小学2年生の男の子が被害者になった事案です。被害者が8歳であることから、被害者の過失を理由に過失相殺することができるのか?が争われました。
最高裁の判断
最高裁は、まず、過失相殺の制度趣旨について次のように述べています。
未成年者が他人に加えた損害につき、その不法行為上の賠償責任を問うには、未成年者がその行為の責任を弁識するに足る知能を具えていることを要する。
他人の不法行為により未成年者が被った損害の賠償額を定めるにつき、被害者たる未成年者の過失をしんしやくするためには、未成年者にいかなる知能が具わっていることを要するかに関しては、民法には別段の規定はない。
民法722条2項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは趣を異にし、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかにしんしやくするかの問題に過ぎない。
その上で、最高裁は、従前の判例を変更し、未成年者の過失相殺について次のように判断しました。
被害者たる未成年者の過失をしんしやくする場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わっていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく、行為の責任を弁識するに足る知能が具わっていることを要しないものと解するのが相当である。