異時事故において、共同不法行為の成立を否定した裁判例を紹介します。
大阪地裁平成26年5月13日判決
いわゆる純粋異時事故において、共同不法行為の成立を否定した裁判例です。
事案の概要
平成20年2月28日午後4時32分ころ、大阪府茨木市内で原告車両1と、対向車線からセンターラインを越えてきたY1車両が衝突した(第1事故)。
平成20年3月6日午前8時15分ころ、大阪府豊中市内でY2車両が原告車両2に追突した(第2事故)。
原告は第1事故当日、病院に搬送され、右前腕打撲、腰部捻挫、全身打撲等との診断を受け、2月28日と29日に通院した。さらに、原告は整形外科に3月3日から5日まで通院した。
3月6日、原告は市立病院を受診し、右手の筋力低下等の症状が見られた。また、脳神経外科において吐き気の主訴がなされたが、脳神経について明らかな麻痺はなさそうとされ、その他についても特に問題は指摘されなかった。3月8日及び10日、原告は整形外科を受診した。
3月10日の夜、原告は病院に行き、入院した。同病院でMRI撮影が行われ、第4、6腰椎椎間板変性あり、ヘルニア形成なしとの判断がなされ、その他特段の異常は発見されなかった。
原告は3月21日に病院を退院した後、24日に市立病院を受診し、検査をした。
その後、原告は整形外科等への通院を続け、平成20年12月の段階で、後頚部痛、後頭部痛等、吐き気時々、自律神経失調、電気治療すると改善するが休むと悪化する等の記載がなされた。平成24年10月25日に、腰痛、肩甲骨部痛、後頚部痛、10-15分歩行で腰痛悪化等の記載がなされている。
平成24年5月31日、原告は自賠責保険において、後頭部・頚部痛、両肩・両上肢痛・めまい等について後遺障害14級9号、腰痛、両膝痛、歩行時痛等について14級9号の認定を受け、併合14級の認定を受け、排尿困難、勃起障害、高血圧症については非該当とされた。
裁判所の判断
裁判所は、以下のように、第1事故と第2事故との共同不法行為の成立を否定しました。
本件では第1事故と第2事故は別の時間、別の場所で発生しており、Y2とY1に意思の連絡もなく、また第1事故が第2事故発生の要因の一つとなっているような事情も全く存しないのであるから、民法719条1項前段の共同不法行為が成立する余地はない。
民法719条1項後段の共同不法行為についてみると、同条項が損害全額の連帯負担という重い義務を各不法行為者に課していることに照らし、損害に一体性があるというだけでその成立を認めることは相当でなく、両事故の時間的・場所的近接性、両事故による損害の質的・量的共通性、治療経過等を総合し、両事故に一定の客観的関連共同性をうかがわせる事情があり、かつ各事故の損害に対する寄与度割合の判断が困難であるといえる場合に限り、これを認めるべきである。
本件各事故の時間的間隔は約1週間と長期間とはいえず、また受傷部位も頸部の点で共通していて、両者の損害に一定の共通性はある。しかし、両事故に場所的近接性がなく、時間的近接性についても極端に強いとまではいえないこと、また対向車同士の接触事故、しかも原告車両1側面を擦過するように衝突したものである第1事故と、後方からの追突事故である第2事故とでは頸部症状発生の蓋然性に相当程度の差があり、実際にも第1事故直後における治療状況からは原告の症状がさほど重度であるとはうかがわれず、第2事故後の症状に対する第1事故の寄与度は非常に小さいと考えられることなどを考慮すると、本件各事故の間に、両者を共同不法行為で結びつけるべきほどの強い関連共同性があるとはいえず、また両者の寄与度割合の認定が困難であるともいえない。
したがって、本件においては共同不法行為が成立するものではなく、原告に生じた損害を、両者の寄与度割合に応じてそれぞれ負担することとするのが相当である。
上記のような第1事故と第2事故の事故態様の違い、第1事故から第2事故までの診療経過等を総合すると、第2事故後における原告の症状が第1事故と無関係とはいえないものの、その寄与は非常に小さいといえ、寄与度割合はY1・5、Y2・95とすべきである。