交通事故において使用者責任が及ぶか?を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁昭和39年2月4日判決
民法715条は使用者責任について規定しています。使用者は、被用者が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います。
この判決は、会社の従業員が私的利用を禁止されている会社の車を無断で持ち出し、運転中に起こした交通事故の事案です。使用者の賠償責任の有無が問題になりました。
事案の概要
上告会社は、自動車、その部品及び附属品の販売、車体の製作並びにその取付を営業目的とする会社であり、上告人Aは、上告会社の被用者でその販売課に勤務していた。
上告人Aは、本件事故当日の午後5時頃上告会社の勤務を終えて退社し、映画鑑賞をした後帰宅すべく駅に赴いたが、最終列車に乗り遅れたため一旦上告会社に引き返し、上告会社所有のジープを引き出して、これを運転しつつ帰宅する途中で本件追突事故を惹起した。
上告人Aは、平素上告会社に通勤するには鉄道を利用しており、販売契約係として自動車購入の勧誘並びに販売契約締結の業務を担当し、右業務執行のため他の同係員8名と共に前記ジープを運転してこれに当っていたこと、上告会社においては、ジープは会社業務の為に使用する場合であっても上司の許可を得なければならず、私用に使うことは禁止されていた。
最高裁の判断
最高裁は、次のように述べ、使用者責任を肯定した原審の判断を是認しています。
上告人Aの本件事故当夜における上記ジープの運行は、会社業務の適正な執行行為ではなく、主観的には同上告人の私用を弁ずる為であったというべきであるから、上告会社の内規に違反してなされた行為ではあるが、民法715条に規定する「事業の執行について」というのは、必ずしも被用者がその担当する業務を適正に執行する場合だけを指すのでなく、広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業の態様、規模等からしてそれが被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められる場合で足りるものと解すべきであるとし、この見地よりすれば、上告人Aの前記行為は、結局、その職務の範囲内の行為と認められ、その結果惹起された本件事故による損害は上告人の事業の執行について生じたものと解するのが相当であるから、被用者である上告人Aの本件不法行為につき使用者である上告会社がその責任を負担すべきである。