損害賠償請求権の転付と自賠責保険の直接請求権(交通事故の判例)

最高裁の判断

 原審は,任意保険契約の約款中に,損害賠償金の額から自賠責共済契約により支払われる額を控除した額が保険金として支払われる旨の定めがあることを前提として,本件事故による損害賠償請求権の額(4536万2235円)から,自動車損害賠償保障法施行令2条1項所定の死亡の場合の自動車損害賠償責任保険の保険金額(3000万円)全額を差し引いた残額(1536万2235円)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で一審原告の一審被告組合に対する保険金の代位請求を認容したものである。

 しかしながら,上記のとおり,一審被告Bの締結した自賠責共済契約に基づいて既にAの妻子に対して同人ら固有の慰謝料として644万5063円の責任賠償金が支払われているのであるから,Aが被った損害に関して自賠責共済契約により一審被告Bに支払われる額は,死亡の場合の保険金額である3000万円から644万5063円を控除した2355万4937円となり,一審原告の一審被告組合に対する任意保険契約に基づく保険金の代位請求は,4536万2235円から2355万4937円を控除することにより算出される2180万7298円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものである。

 したがって,一審原告の右請求につき,一審被告組合に対し,1536万2235円及びこれに対する遅延損害金の支払のみを命じた原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法がある。

 交通事故の被害者の保有者に対する損害賠償請求権が第三者に転付された後においては,被害者は転付された債権額の限度において自賠法16条1項に基づく責任賠償金の支払請求権を失うものと解するのが相当である。

 自動車損害賠償責任保険は,保有者が被害者に対して損害賠償責任を負担することによって被る損害をてん補することを目的とする責任保険であり,自賠法16条1項は,被害者の損害賠償請求権の行使を円滑かつ確実なものとするため,損害賠償請求権行使の補助的手段として,被害者が保険会社に対して直接に責任賠償金の支払を請求し得るものとしているのであって,その趣旨にかんがみれば,自賠法16条1項に基づく責任賠償金の支払請求は,被害者が保有者に対して損害賠償請求権を有していることを前提として認められると解すべきだからである。

 当事者参加人が,一審被告組合に対して,自賠責共済契約により支払われるべき死亡の場合の保険金額(3000万円)から右契約に基づいてAの妻子に対して支払われた644万5063円の責任賠償金を控除した残額2355万4937円と弁護士費用220万円との合計2575万4937円の責任賠償金の支払請求権を有するとした原審の判断は,当事者参加人が,一審原告に対して転付された債権額の限度で一審被告Bに対する損害賠償請求権を喪失した後においても,Aの妻子に対して支払われた分を除く責任賠償金の全額について支払請求権を有すると解したものといわざるを得ないから,原審の判断には,Aが被った損害に関する損害賠償請求権の額(4756万2235円)から一審原告に転付された債権額(4000万円)を控除した残額(756万2235円)を超える額の責任賠償金の支払請求及び支払請求権の確認請求を認容した部分において,法令の解釈適用を誤った違法がある。