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損害賠償請求権の転付と自賠責保険の直接請求権(交通事故の判例)


損害賠償請求権の転付と自賠責保険の直接請求権について判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁平成12年3月9日判決

 交通事故の被害者の保有者に対する損害賠償請求権が第三者に転付された場合、自賠責保険の直接請求権を被害者が行使できるか?が争われた事案です。

事案の概要

 平成5年9月30日、本件事故が発生した。本件事故により死亡したAの妻子全員が平成5年12月に相続放棄の申述をしたことにより、当事者参加人(Aの母)が、Aの権利義務を単独で承継した。

 Aが被った損害に関し本件事故と相当因果関係のある損害の合計額は4、756万2、235円(逸失利益2、736万2、235円、慰謝料1、800万円、弁護士費用220万円)である。

 一審被告Bは、一審被告組合との間で自動車共済契約及び自動車損害賠償責任共済契約を締結していたものであるところ、本件事故後、自賠責共済契約に基づいて、Aの妻子に対し、その固有の慰謝料として644万5、063円の責任賠償金が支払われた。なお、任意保険契約の約款には、損害賠償金の額から自賠責共済契約により支払われる額を控除した額が保険金として支払われる旨の定めがある。

 一審原告は、平成6年10月に、当事者参加人に対する確定判決を債務名義として、当事者参加人が一審被告Bに対して有する本件事故による損害賠償請求権のうち4、000万円についての債権差押及び転付命令を取得し、右命令は、同月21日に一審被告Bに、同年11月1日に当事者参加人にそれぞれ送達され、そのころ確定した。

 一審原告の請求は、以下のとおりである。

 (1)一審被告Bに対し、自賠法3条に基づいて4、400万円の損害賠償金(本件事故による4、000万円の損害賠償金と一審原告が本件訴訟の提起及び追行を弁護士に委任したことに伴う弁護士費用400万円との合計)及びこれに対する前記転付命令の効力が生じた後である平成6年11月12日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

 (2)一審被告組合に対し、選択的に、(ア)任意保険契約所定の保険金の直接請求権に基づき、又は(イ)一審被告Bに代位して同被告が一審被告組合に対して有する保険金請求権を行使するとして、更に予備的に、(ウ)自賠法23条の2の準用する同法16条1項の責任賠償金の支払請求権に基づき、判決の確定を条件に4、400万円及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

 当事者参加人の請求は、以下のとおりである。

 (1)一審被告Bに対し、自賠法3条に基づいて2、590万4、937円の損害賠償金及びこれに対する本件事故の後である平成7年10月10日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

 (2)一審被告組合に対し、自賠法16条1項に基づいて2、590万4、937円の責任賠償金及びこれに対する平成7年10月10日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

 (3)一審原告に対し、当事者参加人が、一審被告Bに対して自賠法3条に基づく2、355万4、937円の損害賠償請求権を、一審被告組合に対して同法16条1項に基づく2、355万4、937円の責任賠償金の支払請求権を、それぞれ有することの確認を求める。

最高裁の判断

 原審は,任意保険契約の約款中に,損害賠償金の額から自賠責共済契約により支払われる額を控除した額が保険金として支払われる旨の定めがあることを前提として,本件事故による損害賠償請求権の額(4,536万2,235円)から,自動車損害賠償保障法施行令2条1項所定の死亡の場合の自動車損害賠償責任保険の保険金額(3,000万円)全額を差し引いた残額(1,536万2,235円)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で一審原告の一審被告組合に対する保険金の代位請求を認容したものである。

 しかしながら,上記のとおり,一審被告Bの締結した自賠責共済契約に基づいて既にAの妻子に対して同人ら固有の慰謝料として644万5,063円の責任賠償金が支払われているのであるから,Aが被った損害に関して自賠責共済契約により一審被告Bに支払われる額は,死亡の場合の保険金額である3,000万円から644万5,063円を控除した2,355万4,937円となり,一審原告の一審被告組合に対する任意保険契約に基づく保険金の代位請求は,4,536万2,235円から2,355万4,937円を控除することにより算出される2,180万7,298円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものである。

 したがって,一審原告の右請求につき,一審被告組合に対し,1,536万2,235円及びこれに対する遅延損害金の支払のみを命じた原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法がある。

 交通事故の被害者の保有者に対する損害賠償請求権が第三者に転付された後においては,被害者は転付された債権額の限度において自賠法16条1項に基づく責任賠償金の支払請求権を失うものと解するのが相当である。

 自動車損害賠償責任保険は,保有者が被害者に対して損害賠償責任を負担することによって被る損害をてん補することを目的とする責任保険であり,自賠法16条1項は,被害者の損害賠償請求権の行使を円滑かつ確実なものとするため,損害賠償請求権行使の補助的手段として,被害者が保険会社に対して直接に責任賠償金の支払を請求し得るものとしているのであって,その趣旨にかんがみれば,自賠法16条1項に基づく責任賠償金の支払請求は,被害者が保有者に対して損害賠償請求権を有していることを前提として認められると解すべきだからである。

 当事者参加人が,一審被告組合に対して,自賠責共済契約により支払われるべき死亡の場合の保険金額(3,000万円)から右契約に基づいてAの妻子に対して支払われた644万5,063円の責任賠償金を控除した残額2,355万4,937円と弁護士費用220万円との合計2,575万4,937円の責任賠償金の支払請求権を有するとした原審の判断は,当事者参加人が,一審原告に対して転付された債権額の限度で一審被告Bに対する損害賠償請求権を喪失した後においても,Aの妻子に対して支払われた分を除く責任賠償金の全額について支払請求権を有すると解したものといわざるを得ないから,原審の判断には,Aが被った損害に関する損害賠償請求権の額(4,756万2,235円)から一審原告に転付された債権額(4,000万円)を控除した残額(756万2,235円)を超える額の責任賠償金の支払請求及び支払請求権の確認請求を認容した部分において,法令の解釈適用を誤った違法がある。


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