交通事故で死亡当時、無職の人の逸失利益を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁昭和44年12月23日判決
交通事故で死亡した被害者が、交通事故当時、無職で勤労意欲に乏しい場合の逸失利益が問題になった事案です。
事案の概要
Yは自車を運転して本件事故現場の南方約50メートルの地点に差し掛かった際、進路前方(事故現場付近)に南向きで停止中と思われる前照灯を点じた対向車のために自車の前照灯を減光したが、対向車は減光する様子がなかったのに、漫然と従前の速度のまま進行したため、対向車の前照灯の光に眩惑されて一時進路前方の見通しを失い、折柄前方道路の中央付近を酒に酔い自転車を押して歩行北進中のXの姿に対向車と離合する直前になってから漸く気づき、あわてて急制動をかけハンドルを左に切ったが、既にXの自転車まで14,5メートルの至近距離に迫っていたので間に合わず、本件事故を惹起するに至った。
最高裁の判断
Xは本件事故死の当時自身の生活費として1か月に少なくとも金8,250円を要したものであるところ、同人は病弱にして勤労意欲に乏しく、かつ、昼間から飲酒にふけることもあって、同人の事故死の当時の収入額は生活費の金額にも満たなかった、という事実関係は、挙示の証拠関係に照らして、首肯することがでないきわけではない。
そして、上記事実関係のもとにおいて、Xが事故死の結果喪失した将来得べかりし利益の存在ないし金額はたやすく認定することができない、とした原審の判断は、正当として是認することができないわけではない。