後遺障害による逸失利益が問題となる後遺障害として,歯牙障害を取り上げます。

歯牙障害の後遺障害

 歯牙障害の後遺障害は,歯科補綴を加えた歯の本数に応じて,10級~14級までの後遺障害が認定されます(口の後遺障害参照)。

 歯牙障害は,多くの職業で労働能力への直接的な影響はないとして,労働能力喪失が否定されることが多く,後遺障害による逸失利益が認められません。

歯の機能

 歯の機能として,①咀嚼機能,②発生・構音機能を挙げることができます。歯が喪失したり欠損すると,咀嚼機能や発声機能に障害が出ることがあります。また,健常な歯が倒れ込んだりして歯並びや噛み合わせが悪くなることがあります。その結果,顎の運動バランスが崩れ,顎の痛みや運動障害が生じたり,見た目が悪くなることがあります。

 歯が補綴されれば,歯の機能は回復し,労働能力は喪失しないと考えられます。しかし,歯科補綴をした又は欠損した歯を修復したことと,歯の機能が回復されたことが一致するとは限らないという指摘もあります。

歯牙障害が労働能力に影響する場合

 言語機能の障害に至らない程度の発生・構音機能に障害が残った場合,被害者の職業が教師・接客業・営業職といった他人とコミュニケーションを取る職業であれば,労働能力の喪失が認められる余地があります。

 また,歯牙障害によって,歯を食いしばって力を入れるような仕事に不都合がもたらす可能性があると判断した裁判例もあり,就労機会の制限や労働の意欲の低下といった影響も考えられます。たとえば,被害者がスポーツ選手であれば,歯科補綴したことによって労働能力に影響があるといえる場合もあると考えられます。

 歯牙障害によって,直接,労働能力を喪失したとは認められない場合でも,現実に咀嚼,発生・構音機能に障害が残り,そのことが労働に支障を生じさせている場合には,労働能力の喪失が認められることがあります。

 判断に際しては,被害者の障害の内容・程度,被害者の職業,転職の可能性を含めた将来就く蓋然性のある職業,現在・将来の職業での支障の内容・程度などが総合考慮されます。

慰謝料の増額事由になる

 歯牙障害による後遺障害による逸失利益が認められない場合,後遺障害による慰謝料の増額事由として歯牙障害を捉えている裁判例が多いです。