腕神経叢は、首から出た神経が集まり、肩から腕、手指へとつながっていく神経の束です。
交通事故で肩や腕に強い力が加わると、この腕神経叢が引き伸ばされたり損傷したりして、肩や肘が動かしにくい、手首や手指に力が入らない、腕や手がしびれる・痛むといった症状が生じることがあります。
腕神経叢損傷は、損傷した部位や程度によって症状が大きく異なります。上位の神経を損傷すると肩や肘の動きに、下位の神経を損傷すると手首や手指の動きに影響が出やすく、広い範囲を損傷すると上肢全体に麻痺が残ることもあります。
治療を続けても麻痺や可動域制限、しびれ・痛みなどが残った場合は、後遺障害等級認定の対象となる可能性があります。
この記事では、腕神経叢損傷で残りやすい症状と、交通事故の後遺障害では何級が問題になるのかを解説します。
- 1. 腕神経叢損傷とは?
- 1.1. 腕神経叢は腕や手を動かす神経の集まり
- 2. 交通事故で腕神経叢を損傷する原因
- 3. 腕神経叢損傷はどのように診断・治療する?
- 3.1. 神経の損傷部位と程度を確認する
- 3.2. 自然回復を待つ場合と手術が検討される場合がある
- 4. 腕神経叢損傷で残りやすい症状
- 4.1. 上位型
- 4.2. 下位型
- 4.3. 全型
- 4.4. しびれ・知覚低下・神経障害性疼痛が残ることもある
- 5. 腕神経叢損傷の後遺障害は何級になる?
- 5.1. 上肢全体が麻痺した場合:5級6号
- 5.2. 肩・肘・手首の麻痺や可動域制限:6級・8級・10級・12級
- 5.3. 手指の麻痺が残った場合
- 5.4. しびれ・痛みが残った場合:12級・14級
- 6. 腕神経叢損傷で後遺障害認定を受けるポイント
- 6.1. 交通事故による受傷機転を確認する
- 6.2. 損傷部位・程度を客観的な検査で確認する
- 6.3. 損傷部位と麻痺の範囲などの症状が一致しているか
- 6.4. 肩・肘・手首・手指の機能を具体的に確認する
- 7. 腕神経叢損傷の後遺障害でお困りの方へ
腕神経叢損傷とは?
腕神経叢は、「わんしんけいそう」と読みます。
腕神経叢は腕や手を動かす神経の集まり
上肢に分布する主要な5つの神経の起始部分であるC5神経根からT1神経根まで5本の神経根が形成する神経叢が、腕神経叢です。
頚部から鎖骨の下をくぐり腋窩にいたる部分での神経損傷を総称して、腕神経叢損傷といいます。

交通事故で腕神経叢を損傷する原因
主として、バイクの交通事故といった高速での事故で、肩と側頭部が地面に叩きつけられる転倒によって生じます。また、作業中に機械に巻き込まれ、腕を引き抜かれるように牽引することでも生じます。さらに、腕神経叢周囲の開放骨折や切創などによっても生じることがあります。
腕神経叢損傷はどのように診断・治療する?
神経の損傷部位と程度を確認する
側頸部から鎖骨上窩の腫脹や疼痛があり、上肢の運動麻痺や感覚障害がある場合、腕神経叢損傷が疑われます。神経学的診察・検査で、腕神経叢のどの部位が、どの程度損傷されたのかを診断します。
自然回復を待つ場合と手術が検討される場合がある
外傷性の神経損傷は不全損傷であれば、かなりの程度自然回復します。完全断裂でも神経修復術によって、ある程度の回復が見込めます。
しかし、腕神経叢損傷は、身体の中枢に近い部分の損傷です。標的臓器である筋肉までの距離が長く、早期に神経の修復が始まらなければ、神経筋接合部が変性し機能回復が期待できません。
受傷後、3か月経過しても回復徴候が見られない場合は、重症の神経損傷の可能性が高く手術適応になります。また、明らかに神経断裂と診断されている場合、神経修復は早ければ早いほど良いと言われています。
また、 異常知覚や神経障害疼痛に対しては、投薬治療やペインクリニックへの通院・治療が行われます。
腕神経叢損傷で残りやすい症状
腕神経叢損傷は、損傷部位によって、上位型・下位型・全型に分類されます。
上位型
上位型では、肩を上げにくい・肘を曲げにくいといった症状が見られます。
そのため、肩を上げたり回したりする動作や、肘を曲げる動作に支障が生じることがあります。着替え、洗髪、物を持ち上げるといった日常動作に支障が出ることもあります。
下位型
下位型では、手首・手指が動かしにくいとった症状が見られます。
そのため、ボタンを留める、箸を使う、物をつかむといった日常生活における動作に支障が生じることがあります。
全型
腕神経叢全体が損傷すると、肩から手指まで上肢全体に運動麻痺や知覚障害といった症状が見られます。
しびれ・知覚低下・神経障害性疼痛が残ることもある
神経損傷に伴う知覚低下、異常知覚、疼痛を訴えることも多くあります。
腕神経叢損傷の後遺障害は何級になる?
腕神経叢損傷では、「腕神経叢損傷」という傷病名だけで後遺障害等級が決まりません。症状固定時に、肩・肘・手首・手指にどの程度の機能障害が残ったか、しびれや痛みなどの神経症状がどの程度残ったかによって、認定される可能性のある等級が異なります。
| 残った障害 | 後遺障害等級 |
|---|---|
| 1上肢の用を全廃 | 5級6号 |
| 1上肢の3大関節中2関節の用を廃した | 6級6号 |
| 1上肢の3大関節中1関節の用を廃した | 8級6号 |
| 1上肢の3大関節中1関節に著しい機能障害 | 10級10号 |
| 1上肢の3大関節中1関節に機能障害 | 12級6号 |
| 医学的に証明できる神経症状 | 12級13号 |
| 医学的に説明できる神経症状 | 14級9号 |
上肢全体が麻痺した場合:5級6号
腕神経叢の完全麻痺によって、肩・肘・手首・手指を自分の意思で動かせないような状態では、「1上肢の用を全廃したもの」として5級6号が問題になります。
肩・肘・手首の麻痺や可動域制限:6級・8級・10級・12級
腕神経叢損傷の不完全麻痺によって、肩・肘・手首・手指が動かせない場合は、可動域制限の範囲によって、6級、8級、10級、12級が問題になります。
通常、関節の可動域制限が問題になる場合は、他動可動域角度を測定します。腕神経叢損傷による末梢神経損傷による弛緩性麻痺の場合は、自動可動域角度を測定します。
手指の麻痺が残った場合
下位型の腕神経叢損傷などでは、手指の動きに障害が残ることがあります。その場合は、動かせなくなった指や本数などに応じて、手指の機能障害として後遺障害等級が問題になります。

以下の「手指・足指の機能障害の後遺障害認定のポイント」も参照
しびれ・痛みが残った場合:12級・14級
腕や手のしびれ、知覚低下、痛みなどが残った場合には、神経症状として後遺障害が認定される可能性があります。
神経症状が医学的・他覚的に証明できる場合には12級13号、そこまでの他覚的所見はないものの、事故による神経症状が医学的に説明できる場合には14級9号が問題になります。
腕神経叢損傷で後遺障害認定を受けるポイント
交通事故による腕神経叢損傷で後遺障害認定を検討する際は、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
交通事故による受傷機転を確認する
腕神経叢損傷と診断されているにもかかわらず、後遺障害が認定されないケースは、交通事故によって受けた衝撃がそれほど大きくないことが考えられます。
腕神経叢損傷の受傷機転となった交通事故によって、どれほど大きな衝撃を受けたかを確認する必要があります。
損傷部位・程度を客観的な検査で確認する
腕神経叢損傷の損傷部位とその程度を客観的に確認できることが必要です。そのためには、頚椎MRIと神経伝導速度検査は必須です。
損傷部位と麻痺の範囲などの症状が一致しているか
腕神経叢損傷は、上位型・下位型・全型に分類されます。上記の神経学的検査などによる所見と実際の症状が一致しているかが重要になります。
肩・肘・手首・手指の機能を具体的に確認する
単に、腕が動かないだけではなく、
- 肩を上げられるか?
- 肘を曲げられるか?
- 手首を動かせるか?
- 手指を動かせるか?
など、細かく具体的に確認することが重要です。
腕神経叢損傷の後遺障害でお困りの方へ
腕神経叢損傷は、損傷する神経の部位や程度によって、残る症状が大きく異なります。
上位型では肩や肘、下位型では手首や手指の運動障害が生じやすく、腕神経叢全体を損傷すると、肩から手指まで広い範囲に麻痺が残ることがあります。また、運動障害だけでなく、しびれ、知覚低下、痛みなどの神経症状が残ることもあります。
後遺障害等級は「腕神経叢損傷」という傷病名だけで決まりません。症状固定時に、肩・肘・手首・手指をどの程度動かせるのか、どのような神経症状が残っているのかによって判断されます。
上肢の麻痺や機能障害の程度によっては5級6号、6級6号、8級6号、10級10号、12級6号などが、しびれや痛みなどの神経症状については12級13号または14級9号が問題になることがあります。
腕神経叢損傷は、損傷部位と実際に残っている症状との対応関係を整理することが重要です。交通事故による腕神経叢損傷で麻痺やしびれなどが残り、後遺障害申請を検討している場合は、申請前に一度弁護士に相談することをおすすめします。

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