自賠法3条の運行供用者責任における他人性に関する最高裁判決を紹介します(他人性については、他人性も参照)。
最高裁平成9年10月31日判決
会社所有の自動車を貸与されていた従業員が、運転代行業者にその自動車を運転させていた際に交通事故に遭い、負傷したという事案です。被害に遭った従業員は、自賠法3条の他人性の要件を満たすのか?が問題になりました。
事案の概要
被上告人は、A社の従業員であり、会社の所有する本件自動車を貸与され、これを会社の業務及び通勤のために使用するほか、私用に使うことも許されていた。
被上告人は、勤務を終えた後、翌午前0時過ぎころまでの間、スナック等で水割り8、9杯を飲んだ。そして、酒に酔って本件自動車を運転することによる危険を避けるため、スナックの従業員を介して、運転代行業者であるP代行に対し、本件自動車に被上告人を乗車させて自宅まで運転することを依頼した。P代行は、依頼を承諾し、代行運転者としてBを派遣した。
Bは、午前1時ころスナックに到着し、被上告人を本件自動車の助手席に乗車させた上、本件自動車を運転して被上告人の自宅に向かっていたところ、午前1時35分ころ、本件自動車とC運転の自動車とが衝突する交通事故が発生した。被上告人は、この交通事故により右眼球破裂等の傷害を負い、右眼失明等の後遺障害が残った。
最高裁の判断
P代行は、運転代行業者であり、本件自動車の使用権を有する被上告人の依頼を受けて、被上告人を乗車させて本件自動車を同人の自宅まで運転する業務を有償で引き受け、代行運転者であるBを派遣して業務を行わせていたのであるから、本件事故当時、本件自動車を使用する権利を有し、これを自己のために運行の用に供していたものと認められる。したがって、P代行は、自賠法2条3項の「保有者」に当たると解するのが相当である。
自動車の所有者は、第三者に自動車の運転をゆだねて同乗している場合であっても、事故防止につき中心的な責任を負う者として、第三者に対して運転の交代を命じ、あるいは運転につき具体的に指示することができる立場にあるのであるから、特段の事情のない限り、第三者に対する関係において、自賠法3条の「他人」に当たらない。正当な権原に基づいて自動車を常時使用する者についても、所有者の場合と同様に解するのが相当である。
被上告人は、飲酒により安全に自動車を運転する能力、適性を欠くに至ったことから、自ら本件自動車を運転することによる交通事故の発生の危険を回避するために、運転代行業者であるP代行に本件自動車の運転代行を依頼したものであり、他方、P代行は、運転代行業務を引き受けることにより、被上告人に対して、本件自動車を安全に運行して目的地まで運送する義務を負ったものと認められる。このような両者の関係からすれば、本件事故当時においては、本件自動車の運行による事故の発生を防止する中心的な責任はP代行が負い、被上告人の運行支配はP代行のそれに比べて間接的、補助的なものにとどまっていたものというべきである。したがって、本件は前記特段の事情のある場合に該当し、被上告人は、P代行に対する関係において、自賠法3条の「他人」に当たると解するのが相当である。