自動車が盗難され、盗難車が交通事故を起こした場合に、自動車の所有者が運行供用者責任を負うか?を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁昭和48年12月20日判決
自動車が盗難された場合に、自動車の所有者が運行供用者責任を負うか?が問題になりました。
事案の概要
被上告人は、44台の営業車と90余名の従業員を使用してタクシー業を営む会社であり、本件自動車も被上告人の所有に属していた。本件自動車は、その当番乗務員が無断欠勤したのに、朝からドアに鍵をかけず、エンジンキーを差し込んだまま、被上告人の車庫の駐車されていたところ、Aは、被上告人とは雇傭関係等の人的関係をなんら有しないにもかかわらず、被上告人の車を窃取してタクシー営業をし、そのうえで乗り捨てようと企て、午後11時頃扉が開いていた車庫の裏門から侵入したうえ本件自動車に乗り込んで盗み出し、大阪市内においてタクシー営業を営むうち、翌午前1時5分頃、市電安全地帯に本件自動車を接触させ、その衝撃によって客として同乗していた上告人に傷害を負わせた。
最高裁の判断
最高裁は、自動車の所有者であるタクシー会社の運行供用者責任を否定しました。また、民法715条の使用者責任についても否定しています。
本件事故の原因となった本件自動車の運行は、Aが支配していたものであり、被上告人はなんらその運行を指示制御すべき立場になく、また、その運行利益も被上告人に帰属していたといえないことが明らかであるから、本件事故につき被上告人が自動車損害賠償保障法3条所定の運行供用者責任を負うものでないとした原審の判断は、正当として是認することができる。
自動車の所有者が駐車場に自動車を駐車させる場合、駐車場が、客観的に第三者の自由な立入を禁止する構造、管理状況にあると認めうるときには、たとえ当該自動車にエンジンキーを差し込んだままの状態で駐車させても、このことのために、通常、自動車が第三者によって窃取され、かつ、この第三者によって交通事故が惹起されるものとはいえないから、自動車にエンジンキーを差し込んだまま駐車させたことと当該自動車を窃取した第三者が惹起した交通事故による損害との間には、相当因果関係があると認めることはできない。
車庫は、客観的に第三者の自由な立入を禁止する構造、管理状況にあつたものと認められるから、被上告人が本件自動車にエンジンキーを差し込んだまま駐車させていたことと上告人が本件交通事故によって被った損害との間に、相当因果関係があるものということはできない。そして、この判断は、本件において、次のような事実、すなわち、被上告人は、本件自動車が窃取された約20日前にも、エンジンキーを差し込んだまま本件自動車の駐車地点とほぼ同じ場所に駐車しておいたままタクシー車が窃取されたうえ乗り捨てられたという事実があったが、盗難防止のための具体的対策を講じなかったこと、被上告人の営業課長は、本件自動車が窃取される前、すでに、エンジンキーが差し込まれたままの状態にあったことを知っていたが、そのまま放置していたこと、また、被上告人の当直者のだれもが本件自動車が窃取されたことに気付かなかったこと等の事実が存し、被上告人の本件自動車の管理にはいささか適切さを欠く点のあつたことが認められることを考慮しても、左右されるものとはいえない。
したがって、被上告人が本件事故につき民法715条の不法行為責任を負うものではないとした原審の判断は、正当として是認することができる。