運行供用者責任に関する問題として、①運行供用者とは?②運行起因性とは?③他人とは?という3つの問題があります。①運行供用者とは?を取り上げます。
運行供用者とは?
自賠法3条は、運行供用者責任の主体を「自己のために自動車を運行の用に供する者」と規定しています。「自己のために自動車を運行の用に供する者」を運行供用者といいます。
たとえば、会社の従業員が、会社所有の自動車を会社の業務のために運転中に、交通事故を起こした場合、運転手は運行供用者ではありません。被害者が運転手に対して損害賠償請求するには、民法709条に基づいて行うことになります。この場合、運行供用者は会社です。
車両の保有者は運行供用者
自賠法は、運行供用者について具体的な定義をしていません。もっとも、車両の保有者は、運行供用者に当たると規定しています。自賠法2条は、保有者を「自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供する者」と規定しています。
自賠法2条のいう自動車を使用する権利には、所有権以外にも賃貸借・使用貸借・委任等の法律関係を問わず、正当な権原に基づく使用権をいいます。無断運転や盗用運転の場合の運転手は、保有者には当たらないとされています。
運行支配と運行利益
前述のとおり、自賠法は、運行供用者に関して、具体的な定義をしていません。判例は、交通事故を起こした車両について①運行支配と②運行利益が帰属する者を運行供用者というと解しています。①運行支配が危険責任の側面から、②運行利益が報償責任の側面から判断基準と導かれると解されています。
運行支配の内容
当初の判例は、運行支配を直接の支配と解していました。その後、その範囲を拡大していきました。最高裁昭和50年11月28日判決は、運行支配を「自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場」と判断しています。
運行利益の内容
最高裁昭和46年7月1日判決は,運行利益を「運行を全体として客観的に観察するとき,本件自動車の運行が所有者のためになされていたものと認めることができる」と判断しています。
運行利益の内容が上記のとおり,抽象化されており,裁判実務では,運行支配を中心に判断がなされています。