自賠責保険の直接請求権に関する最高裁判決を紹介します。
最高裁昭和57年1月19日判決
交通事故の被害者が、自賠責保険会社に直接請求権(自賠法16条1項)を行使したところ、保険会社が運行供用者責任の成否を争ったため、損害賠償額の支払請求訴訟を提起せざるを得なくなった事案です。
訴訟遂行を弁護士に依頼した場合に、弁護士費用を自賠責保険会社に請求できるか?が問題になりました。また、自賠法の直接請求権の商行為性も問題になりました。
なお、ここでいう弁護士費用は、被害者が依頼した弁護士に実際に支払う弁護士報酬ではありません。損害賠償の費目としての弁護士費用です。
最高裁の判断
最高裁は、以下のように、自賠責保険への直接請求についても、弁護士費用(実際に依頼者が弁護士に支払う報酬ではない)の請求を認めました。
不法行為の被害者が、自己の権利擁護のため訴を提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものにかぎり、不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきであることは当裁判所の判例とするところであり、この理は、被害者が自動車損害賠償保障法16条1項に基づき保険金額の限度において損害賠償額の支払を保険会社に対して直接請求する場合においても異ならないと解するのが相当である。
また、自賠責保険について、商行為性を否定しています。
自動車損害賠償保障法16条1項に基づく被害者の保険会社に対する直接請求権は、被害者が保険会社に対して有する損害賠償請求権であって、保有者の保険金請求権の変形ないしはそれに準ずる権利ではないのであるから、保険会社の被害者に対する損害賠償債務は商法514条所定の「商行為ニ因リテ生ジタル債務」には当らないと解すべきである。弁護士費用を除く損害賠償債務について商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金を付した原審の判断には、自動車損害賠償保障法16条1項及び商法514条の規定の解釈適用を誤った違法がある。