後遺障害がある被害者が、交通事故によって、同じ部位について後遺障害の程度が重くなった場合の後遺障害を加重障害として扱います。神経系統の後遺障害について、加重障害として扱われる同一部位か?が争われた判決を紹介します。
東京高裁平成28年1月20日判決
胸椎圧迫骨折によって胸髄損傷の後遺障害を負っていた被害者が、車いすで交差点を通行中に交通事故に遭い、頚椎捻挫に伴う両上肢の痛みの後遺障害が残ったという事案です。
争点
被害者の既存障害は、胸髄損傷という中枢神経の障害でした。一方、交通事故により新たに生じた障害は、末梢神経の障害でした。自賠責保険は、神経系統の障害について、中枢神経と末梢神経が同一の系列であることから、同一の部位として扱っています。
そして、自賠責保険は、例外的に既存障害と現存障害が局部の神経症状の場合、発症部位によっては別の部位として認定をしています。本件では、中枢神経の障害と末梢神経の障害が同一部位かどうか?争われました。
裁判所の判断
東京高裁は、以下の理由で、中枢神経の障害と末梢神経の障害は同一部位ではないと判断しました。
加重障害は、障害の等級評価に差が出ない部分については、賠償対象となる損害の発生はないとして、その部分を自賠責保険による補てん対象から除外することにある。
自賠責保険が交通事故による身体障害から生じた損害賠償請求権全体を対象としていることを踏まえれば、「同一の部位」とは、損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位をいうと解すべきである。
胸髄と頚髄とは異なる神経の支払領域を有し、それぞれ独自の運動機能、知覚機能に影響を与えるものであるから、本件既存障害と本件症状とは、損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位に当たると解することはできず、「同一の部位」であるということはできない。