自賠法3条の運行供用者責任の要件である運行起因性に関連して、駐停車中の自動車によって、交通事故が発生した場合、運行供用者責任を問うことができるでしょうか?
駐停車と運行起因性
駐停車中の自動車の交通事故としては、以下の4つの類型が考えられます。
駐停車中の自動車事故の類型
①駐停車車両に後方から進行してきた車両が衝突する交通事故
②駐停車車両のドアの開閉による交通事故
③荷積み・荷卸し中の事故
④特殊自動車の操作中の事故
駐車車両の存在による交通事故
最高裁が採用している固有装置説によれば、運行とは、走行装置だけでなく、クレーン車におけるクレーン等特殊自動車等に固有の装置をその目的に従って、使用することです。
固有装置説を前提にすると、駐停車は運行に当たりません。しかしながら、裁判例では、走行行為と駐停車との間に時間的・場所的関連、駐車目的等から一体性・連続性があるかを検討し、一体性・連続性があれば運行に当たると判断しているものがあります。
駐停車車両の存在による交通事故では、駐停車車両の運転者からみて、そのような場所に駐停車すると事故を引き起こすことが予見でき、現に、駐停車車両の存在と交通事故との間に相当因果関係が認められれば、民法709条に基づき賠償請求を負います。民法709条に基づいて賠償請求がなされる事案も多くあります。
駐停車車両のドアの開閉による交通事故
駐停車中の車両のドアの開閉は、自動車の固有装置を目的に従って使用することに当たるので、固有装置説からは、運行に該当します。
また、開閉したドアに後方の車両が衝突した場合、ドアの開閉と事故との因果関係も認められます。助手席のドアを開閉した際に後方の車両が衝突した場合も同様に因果関係が認められます。
したがって、駐停車車両のドアの開閉による事故は、運行起因性が認められます。
荷積み・荷卸し中の事故
トラックの荷台が装置に該当するとしても、特段、操作をしていない場合には、固有装置説からは運行に当たらないことになります。
最高裁昭和56年11月13日判決は、材料置場に到着後、車両を駐車したまま1時間、休憩した後、荷卸し作業中に積荷の下敷きになり死亡した事案です。最高裁は、①荷台の操作が考えられないこと、②材料置場に一般人が出入りすることがないこと、③駐車前の走行と荷卸し作業の連続性に欠けること、④荷卸し作業が走行準備のためではなく、走行との連続性に欠けることから、運行に当たらないと判断しています。
最高裁昭和63年6月16日判決は、荷台上にフォークリフト挿入用の枕木が設置してある木材運搬専用の貨物自動車の木材の荷卸し作業中に、通行者が木材の下敷きになって死亡した事案です。最高裁は、荷卸し作業自体はフォークリフトで行われているが、荷台をその目的に従って使用することによって行われたとして、運行起因性を認めています。
特殊自動車の操作中の事故
固有装置説からは,運行に該当することは明らかです。固有装置の操作中に事故が発生すれば,相当因果関係も認められるので,運行起因性が認められます。