自営業者の後遺障害による逸失利益の算定に当たって、問題になる点を取り上げます。
後遺障害による逸失利益の算定
後遺障害による逸失利益の算定は、以下の計算式によって行います。
自営業者の場合は基礎収入が問題
基礎収入の算定は、休業損害の場合とパラレルに考えるのが通常です(自営業者の休業損害参照)。しかし、後遺障害による逸失利益と休業損害では、次の点で違いが生じます。
①休業損害が比較的短期間の療養期間についての逸失利益の填補であるのに対し、後遺障害による逸失利益は長期間にわたる収入の減収又は喪失に対する填補である
②固定費の取扱い
長期間にわたる収入の減収又は喪失に対する填補
後遺障害による逸失利益は、長期間にわたる収入の減収又は喪失に対する填補です。そのため、交通事故当時の現実の所得が低額であっても、労働能力喪失期間中にそれを上回る所得が得られる蓋然性を立証できれば、その金額が基礎収入となります。
特に30歳未満の若年者の場合は、実収入が賃金センサスの学歴計・全年齢平均賃金を下回る場合でも、将来的に生涯を通じて学歴計・全年齢平均賃金を得られる蓋然性が認められる場合、基礎収入は賃金センサスの学歴計・全年齢平均賃金として算出するとされています。
事業所得が赤字の場合、休業損害は否定しつつ、後遺障害による逸失利益については、当然に逸失利益が否定されるわけではなく、従前の収入状況や稼働状況等を総合的に考慮し、収入を得られる蓋然性が認められれば、その範囲で認定するという裁判例(大阪地裁平成26年12月11日判決)もあります。
固定費の取扱い
自営業者の休業損害の算定において、基礎収入は、一般的に、所得+固定費によって算出すると説明されています。
これは、休業期間中も将来の事業継続のために、交通事故前と同様に固定費を支払わなければならないという事情があるため、固定費が休業期間中に無駄になった経費と評価することができるからです。
後遺障害による逸失利益には、上記のような事情が認めれないので、基礎収入の算定に当たっては固定費を加えないというのが一般的な裁判例の傾向です。