遷延性意識障害とは

 遷延性意識障害とは,次の6つを満たす状態に陥り,改善が見られないまま3か月以上が経過したものと日本脳神経外科学会によって定義されています。

 ①自立移動不可能

 ②自力摂食不可能

 ③屎尿失禁状態にある

 ④声は発しても,意味のある発語が不可能

 ⑤目を開け,手を握れなどの簡単な命令にはかろうじて応じることもあるが,それ以上の意思疎通が不可能

 ⑥眼球はかろうじて物を追っても認識できない

 遷延性意識障害は脳の損傷によって生じます。有効な治療法も予後もわからない状況であることが多いと言われています。しかしながら,まったく回復しないというわけでもなく,徐々に回復し遷延性意識障害から脱却する例もあります。他方で,抵抗力・体温調節機能の低下が見られ,褥瘡が生じやすく,肺炎等の感染症で死亡する例もあります。

遷延性意識障害の介護状況

 かつては,病院や介護施設で介護されいましたが,医療技術・医療機器の進歩や受入れ施設の不足などから在宅介護が選択されることもあります。

 遷延性意識障害の症状に程度差はありますが,重症の場合,次のような介護を必要だと裁判例で認定されています。

食事

 1日3回,口・鼻などからチューブを入れて栄養剤等を注入します。

呼吸

 のどぼとけの下に気管切開部を設けて,定期的又は必要に応じて,吸引器で痰を吸引します。また,吸入器で薬剤等を吸入させる必要があります。

体位変換

 褥瘡の防止のために定期的に体位変換を行う必要があります。

排せつ

 おむつを使用し,定期的に交換しなければなりません。また,下剤によって排便を管理し,摘便をすることが必要な場合もあります。

その他

 以上に加えて,入浴,着替え,歯磨きの介助や身体の清拭,マッサージなどが必要になります。

交通事故における遷延性意識障害の損害賠償

 交通事故により,被害者が遷延性意識障害に陥った場合,損害賠償について,次のような損害費目が問題となります。いずれも将来の予測を伴う損害算定の困難さからきており,一定のフィクションが入らざるを得ません。

将来の治療費

 交通事故の傷害に関する治療費は,症状固定までしか損害として認められないというのが原則です。遷延性意識障害の場合,症状を維持するため,将来の定期的な受診が必要であるとして,将来の治療費が請求されることが多くあります。

将来介護費

 遷延性意識障害に限らず,将来介護費は金額が高額になるので,常に争われる損害費目の一つです(将来の介護費参照)。

後遺障害による逸失利益

 後遺障害による逸失利益の算定に当たっては,生活費控除を行いません。遷延性意識障害に関してはは常時寝たきりのため,生活費控除がなされるべきとの主張がなされていました。

家屋改造費

 家屋改造費は,高額になることが多く,遷延性意識障害に限らず,将来介護費と同様に問題となる損害費目の一つです(家屋改造費参照)。

将来の介護用自動車,介護器具費用

 介護用自動車や痰の吸引器などの介護用具の費用が請求されることがあります。単体では数十万円から数百万円ですが,3年から10年で買替が必要だとして,数千万円の請求がなされることもあり,問題となります。