交通事故後に被害者が自殺した場合

 交通事故によって,後遺障害が残った被害者が自殺によって死亡した場合,交通事故と自殺との間に相当因果関係が認められれば,加害者は死亡による損害を賠償する義務を負います。

 自殺は,多少なりとも被害者の自由意志が契機になっていることから,相当因果関係が認められるかどうかの判断が難しいという実情があります。また,仮に交通事故と自殺との因果関係が認められたとしても,加害者に死亡によるすべての損害を賠償させるのか?という問題も生じます。

最高裁平成5年9月9日判決

 加害者に死亡による損害の賠償責任を認めた上で,自殺には被害者の心因的要因も寄与しているとして賠償額を減額した最高裁判決を紹介します。

事案の概要

 自動車と自動車の交通事故で,被害者は頭痛,頭重,項部痛,めまい,眼精疲労などの症状について後遺障害等級14級の認定を受けた。交通事故後,被害者は災害神経症状態に陥り,うつ病を発症し,症状固定から1年4か月後に自殺した。

最高裁の判断

 被害者が被った傷害は,身体に重大な器質的障害を伴う後遺症を残すようなものでなかったものの,本件事故の態様が被害者に大きな精神的衝撃を与え,しかもその衝撃が長い年月にわたって残るようなものであった。その後の補償交渉が円滑に進行しなかったことなどが原因となって,被害者が災害神経症状態に陥り,更にその状態から抜け出せないままうつ病になり,その改善をみないまま自殺に至った。自らに責任のない事故で傷害を受けた場合には災害神経症状態を経てうつ病に発展しやすく,うつ病にり患した者の自殺率は全人口の自殺率と比較してはるかに高い。

 以上のような事情から交通事故事故と被害者の自殺との間に相当因果関係があると判断しています。その上で,自殺には被害者の心因的要因も寄与しているとして相応の減額をして死亡による損害額を定めた原審の判断は,正当であると判断しています。

被害者遺族はどのような請求をするべきか?

 被害者に残った後遺障害が14級という後遺障害の中では最も軽いものであるにも関わらず,最高裁が交通事故と自殺との間の相当因果関係を肯定したことが注目されます。

 ちなみに,本件で最高裁が是認した原審は,自殺に被害者の心因的要因が寄与しているとして損害額を80%減額しています。一方で,交通事故後に被害者が死亡しても後遺障害による逸失利益の算定には考慮しないというのが最高裁の立場です(交通事故の被害者が別の原因で死亡した場合の後遺障害による逸失利益参照)。

 したがって,後遺障害が重度の場合は,死亡による損害賠償を求めるよりも後遺障害による逸失利益を請求した方が,損害額が多くなる可能性があります。